「朝起きたら首が動かない」

「振り向くのも困難で肩甲骨まで痛みが広がる」

──そんな経験をしたことがある人は少なくない。

多くの場合「寝違えだろう」と片付けられるが、実際には筋肉や神経が関与しているケースがある。
今回ご紹介するのは、朝の強い首の痛みに悩まされた30代女性会社員の一例である。

• 朝起きると首の付け根に強い痛みを感じ、動かすのが困難

• 振り向くと痛みが肩甲骨の内側にまで広がる

• デスクワークで肩こりは感じていたが、ここまで強い痛みは初めて

• 市販の湿布を試したが効果はなく、不安が募っていた

「寝違えだと思っていたのに、どんどん痛みが広がってきて、仕事に行けるか不安でした」

触診と検査を進めると、首の前から横にかけて位置する斜角筋の痙攣と過緊張が確認された。斜角筋は呼吸や姿勢保持にも関与する重要な筋肉であり、神経や血管の通り道を作る役割もある。

この筋肉が痙攣を起こすと、神経が圧迫され、首の動きが制限されるだけでなく肩甲骨や腕にまで痛みやしびれが広がることがある。つまり「炎症による単なる寝違え」と「斜角筋の痙攣による神経圧迫」では、必要な処置がまったく異なる。誤った判断で強いマッサージを行った場合、症状を悪化させるリスクもあるため注意が必要だ。

今回は、斜角筋の過緊張を緩め、神経の通りを改善することを最優先とした。

実施した施術

1. キネシオテーピング療法
   　→ 斜角筋の緊張を和らげ、動作時の負担を減らす。

2. 筋スラッキング療法
   　→ 筋肉と皮膚の滑走を改善し、神経への圧迫を軽減。

結果

施術後の再検査では、首の可動域が大きく回復し、振り向き動作も可能に。痛みの強さも半減以上に軽減した。患者は「仕事に行けるか不安だったけど、これなら大丈夫そう」と安堵の表情を見せていた。

施術から数日後には、日常生活での支障はほとんどなくなった。
パソコン作業中も首の動きがスムーズになり、肩甲骨周りの張りも軽減。
以前は首の痛みを避けるために体ごと振り向いていたが、自然に首だけで動けるようになった。

さらに、痛みがなくなったことで睡眠の質も改善し、夜中に何度も目が覚めることが減った。
週末は友人と外出する余裕が生まれ、これまで我慢していた趣味のヨガも再開できた。
首の可動域が戻ることで、仕事だけでなく生活全体に安心感が広がったのである。

「首が動くだけでこんなに生活が楽になるなんて思いませんでした。寝違えだと思い込んでいたけど、きちんと診てもらってよかったです」

「痛みがなくなった＝治った」ではない。再発を防ぐためには、背骨全体のバランスと姿勢改善が必要である。

提案した内容：

• デスクワーク時の姿勢調整（特に頭が前に出る姿勢の修正）

• 定期的なストレッチと深い呼吸法で斜角筋を緩める習慣づけ

• 胸椎・腰椎の柔軟性回復を図る運動療法

これらを継続することで、再び同じような強い痛みに悩まされるリスクを減らすことができる。

今回のケースは「寝違え」と思われがちな症状の中に、神経圧迫を伴う斜角筋の痙攣という要因が隠れていた好例である。
痛みの背景には、長時間のデスクワークや姿勢の崩れが大きく関与していた。

重要なのは、「痛みの出ている場所」だけに注目するのではなく、その奥にある構造や神経の通り道に目を向けることである。
斜角筋の過緊張を早期に発見し適切に処置すれば、長引く首や肩甲骨の痛みを防ぐことができる。
放置したままにすると慢性化し、頭痛や手のしびれといった新たな不調を引き起こす可能性もあるため注意が必要だ。