25年以上の臨床経験を一冊の本に
2026年10月26日、私が執筆した『キネシオテーピングとカイロプラクティック ~あの日へ戻らない身体を作る~』が、一般社団法人キネシオテーピング協会から発売される予定である。
カイロプラクティックとキネシオテーピング。
この二つは、私が長年の臨床で大切にしてきた技術である。
しかし、自分がこれまで積み重ねてきた経験を、一冊の本としてまとめることになるとは考えていなかった。
今回の出版は、単に施術方法を紹介するためのものではない。
25年以上のカイロプラクティック臨床経験を振り返り、身体をどのように評価し、どのような刺激を選択するべきなのかを、改めて考える機会となった。
その始まりから発売までの道のりを紹介したい。
2026年3月、執筆依頼から始まった
今回の出版のきっかけは、キネシオテーピング協会の岡根知樹会長から執筆のお話をいただいたことである。
2026年3月1日付の執筆マニュアルには、協会が進めている「INSPIRE」と「FlexCode」に準拠した書籍制作の方針が記されていた。
INSPIREとは、身体の構造だけでなく、筋膜や体液の流れ、神経系の働きなどを含めて身体を捉えようとする、協会の臨床的な考え方である。
また、会長が考えた書籍の構成案も提示された。
そこには、カイロプラクティックとキネシオテーピングを組み合わせ、新しい臨床体系を提案しようとする構想があった。
この資料を受け取ったとき、私が最初に考えたのは、25年以上のカイロプラクティック臨床経験を、どのような形で本に反映させるかということであった。
単に二つの施術技術を並べるのでは意味がない。
カイロプラクティックの視点から身体を評価し、その結果をキネシオテーピングの貼付につなげる。
さらに、できるだけ強い刺激に頼らずに身体を整えるための考え方を示したい。
そこから、今回の執筆が始まった。
なぜ、矯正しても元に戻ってしまうのか
私は2006年9月、東京・三軒茶屋でアールカイロプラクティックセンターを開業した。
開業以前からカイロプラクティックに携わり、現在まで25年以上にわたって臨床経験を重ねてきた。
カイロプラクティックと聞くと、背骨や骨盤を「ボキッ」と矯正する施術を思い浮かべる方が多いだろう。
実際、カイロプラクティックには、関節に刺激を加えるアジャストメントという技術がある。
しかし、長年の臨床を通して、私は一つの疑問を持つようになった。
なぜ、矯正しても元の状態に戻ってしまう人がいるのだろうか。
施術直後には身体が動きやすくなっても、しばらくすると以前と同じような状態になる人がいる。
一方で、強い刺激を加えなくても、身体の動きや筋肉の働きに変化が現れる人もいる。
その違いはどこにあるのだろうか。
ここで重要になるのが、骨格の位置だけでなく、その周囲の筋肉や神経系の働きまで考えることである。
骨は、骨だけで動いているわけではない。
骨を動かしているのは筋肉であり、その筋肉の働きには神経系が関わっている。
筋肉の動きには、筋膜の滑走性や血液循環なども関係する。
つまり、姿勢や身体の動きの問題を、骨格だけで説明することはできないのである。
もちろん、すべての痛みや姿勢の変化が筋肉によって生じるわけではない。
それでも、骨格だけを整えようとする前に、その背景にある身体の働きを確認する必要があると考えるようになった。
キネシオテーピングを「矯正前の下ごしらえ」に
こうした考え方を臨床で形にするために、私が重視してきたのがキネシオテーピングである。
テーピングというと、スポーツ選手がケガをしたときに使用するものや、関節を固定するものというイメージが強いかもしれない。
しかし、当院で用いているキネシオテーピングは、固定を主な目的とするものではない。
伸縮性のあるテープを皮膚に貼り、身体の自然な動きを妨げずに、皮膚からの感覚入力などに働きかけることを目的としている。
私は施術前後の筋力や関節の動き、身体感覚などを確認しながら、キネシオテーピングを活用している。
その中で大切にしているのは、「どこに貼るか」だけではなく、「なぜそこに貼るか」という考え方である。
例えば、首の動きが悪いからといって、必ずしも首の関節だけに問題があるとは限らない。
肩甲骨周囲の筋肉や胸郭の動き、姿勢など、複数の要素が関係している場合もある。
そこで、関係する筋肉や筋膜にキネシオテーピングを行い、身体の反応を確認する。
それによって動きが変化するのであれば、必ずしも強い矯正刺激を加える必要はないかもしれない。
もちろん、キネシオテーピングですべての症状が改善するわけではない。
貼付後に変化があったとしても、それだけで症状の原因が特定できるわけではない。
しかし、身体を整えるための選択肢を増やすことには意味がある。
こうした考え方を、今回の本では「矯正前の下ごしらえ」としてまとめている。
初稿を書きながら、自分の臨床を見つめ直した
執筆作業を始めると、予想していた以上に難しいことに気づいた。
普段の施術では自然に行っている判断でも、文章にしようとすると簡単ではない。
なぜその筋肉を選ぶのか。
なぜその方向へテープを貼るのか。
骨盤や背骨の状態と、筋肉の働きにはどのような関係があるのか。
貼付後には何を確認するべきなのか。
こうした判断を、一つひとつ文章にしていく必要があった。
会長から提示された構想をもとに、カイロプラクティックの基礎、身体評価、筋肉と骨格の関係、具体的な貼付デザイン、症状別の臨床応用などを整理していった。
頸椎、胸椎、腰椎、骨盤、肩甲骨といった部位ごとの内容に加え、肩、肘、手首、股関節、膝、足などの四肢症状も取り上げた。
これには、当院で手足のしびれや神経痛を中心に施術してきた経験も反映されている。
書籍の原稿を作ることは、自分の臨床を言葉にする作業であった。
そして同時に、自分がこれまで何を大切にして施術してきたのかを、改めて確認する作業でもあった。
表紙デザインにも試行錯誤があった
原稿がまとまり始めると、次は表紙のデザインである。
本の表紙は、単なる装飾ではない。
読者が最初に目にする、本の内容や考え方を伝える重要な部分である。
今回の書籍でも、さまざまな表紙デザイン案が検討された。
脊柱を中心に表現したもの。
キネシオテーピングをイメージした流線を強調したもの。
文字を中心に、専門書としての印象を前面に出したもの。
同じ白や青を基調としたデザインでも、配置や表現方法によって、受ける印象は大きく異なる。
どのデザインも、カイロプラクティックとキネシオテーピングを一冊の本として、どのように表現するかを考えた結果である。
そして、複数の案を検討する過程で、今回の書籍が伝えたいことも、より明確になっていった。
最終的には、これらの検討を経て正式な表紙デザインが決まった。
完成した表紙を見ると、文章を書き始めた頃には漠然としていた「一冊の本ができる」という実感が、少しずつ現実のものになってきた。
発売を知らせるチラシにも込めた想い
原稿や表紙が形になった後も、作業は終わらなかった。
次に取り組んだのが、発売を知らせるための紹介チラシである。
最初は、本の内容や臨床の考え方を説明することを中心に考えていた。
しかし、それだけでは今回の本を出版する意味が十分に伝わらないと感じた。
この本は、単なる施術方法の解説書ではない。
25年以上のカイロプラクティック臨床経験を通して、私が大切にするようになった施術の考え方をまとめた本でもある。
では、その考え方を短い言葉で伝えるとすれば、何になるのだろうか。
そこでたどり着いたのが、
「矯正する前に、できることがある。」
という言葉であった。
私は、アジャストメントという技術を否定しているわけではない。
しかし、身体の状態によっては、強い刺激を加える前に、筋肉や筋膜の働きに目を向けることができる。
キネシオテーピングによって、まず身体が変化しやすい環境を整える。
それでも必要な場合には、適切な方法を選択する。
この考え方を伝えるために、チラシには書籍の内容だけでなく、出版に込めた想いも盛り込んだ。
この本を通して、一般の方にも伝えたいこと
今回の書籍は、キネシオテーピングを学んだ施術者、とりわけカイロプラクティックに携わる人を主な対象としている。
そのため、一般の方が自分でテープを貼るためのセルフケア本ではない。
しかし、今回の出版を通して、患者さんにも知っていただきたいことがある。
それは、身体を整えるためには、必ずしも強い刺激が必要とは限らないということである。
身体に痛みやしびれがあると、「骨がずれているのではないか」「強く押してもらわなければ治らないのではないか」と考える人もいる。
しかし、痛みやしびれにはさまざまな原因がある。
筋肉や関節だけでなく、神経系の病気などが関わっている場合もあり、医療機関での診察や検査が必要になることもある。
そのため、症状がある部分だけを見るのではなく、身体全体の状態を確認することが大切である。
また、痛みが強いときや身体が刺激に敏感になっているときには、強い刺激が適さない場合もある。
当院では、問診や検査を通して身体の状態を確認し、必要以上に強い刺激を加えないことを重視している。
今回の書籍にまとめた内容も、そのような施術方針の延長線上にある。
25年以上のカイロプラクティック臨床経験を、次の世代へ
2006年の開業から20年。
そして、開業以前から積み重ねてきた25年以上のカイロプラクティック臨床経験。
振り返れば、自分の身体の見方や施術に対する考え方も、長い年月の中で変化してきた。
経験を重ねるほどに重要だと感じるのは、単にどのような技術を使うかではなく、なぜその技術を選ぶのかということである。
どこに問題があると考えるのか。
身体はどのような反応を示しているのか。
強い刺激が必要なのか、それとも、もっと穏やかな方法を選択できるのか。
その判断が、施術を組み立てるうえで重要になる。
今回の書籍は、そうした考え方を一冊にまとめる機会となった。
この本が、施術者にとって身体の見方を広げるきっかけとなり、患者さんが必要以上に強い刺激を受けずに済む臨床につながればうれしく思う。
そして、今回の出版を機に、私自身も改めて学びを深め、これからの臨床に生かしていきたいと考えている。
書籍『キネシオテーピングとカイロプラクティック』のご案内
書名: キネシオテーピングとカイロプラクティック
副題: あの日へ戻らない身体を作る
著者: 菊池 竜
発行: 一般社団法人キネシオテーピング協会
発売予定日: 2026年10月26日(月)
販売価格: 7,700円(税込)
販売対象: キネシオテーピング協会会員
注文方法: キネシオテーピング協会会員サイト
今回の出版にあたり、執筆の機会をいただいたキネシオテーピング協会の関係者の皆さま、これまで臨床について意見を交わしてくださった先生方、そして長年当院をご利用いただいている患者さんに感謝したい。
矯正する前に、できることがある。
今回の書籍には、25年以上のカイロプラクティック臨床経験を通してたどり着いた、私なりの答えをまとめている。
この一冊が、これからの臨床を考えるきっかけとなれば幸いである。
アールカイロプラクティックセンター
院長 菊池 竜
