昨日はそれほど気にならなかったのに、今日は同じ場所が痛い。
朝起きたときはつらかったのに、午後になると少し楽になっている。
反対に、日中は問題なかったのに、仕事が終わる頃になると痛みやしびれが強くなる。
このような経験をしたことがある人は少なくない。
ここで一つ疑問が生まれる。
同じ身体で、同じ場所に症状があるのに、なぜ日によって痛みの強さが変わるのだろうか。
痛みが強くなった日は、身体のどこかが急に悪化したのだろうか。
必ずしもそうとは限らない。
痛みの強さは、「傷んでいる場所の状態」だけで決まっているわけではないからである。
痛みは、その場所だけで作られているわけではない
たとえば、足をぶつけたとする。
ぶつけた場所では、その刺激を神経が受け取り、電気信号として脊髄へ伝える。そして、その情報がさらに脳へ伝わることで、私たちは「痛い」と認識する。
つまり痛みとは、
- 身体で刺激が発生する
- 神経がその情報を伝える
- 脊髄や脳で情報を処理する
- 痛みとして認識する
という一連の過程によって生まれている。
ここで重要なのは、身体から脳へ一方通行で情報が送られているわけではないということである。
私たちの神経系には、入ってきた刺激をそのまま全部「痛み」として伝えないための仕組みも備わっている。
いわば、痛みを抑える仕組みである。
身体には「痛みを抑える働き」が備わっている
身体には、危険を知らせるために痛みを伝える仕組みが必要である。
しかし、入ってくる刺激をすべて強い痛みとして感じていたら、日常生活を送ることはできない。
洋服が皮膚に触れる。 椅子に身体が当たる。 靴の中で足が地面から圧力を受ける。 歩くたびに関節や筋肉へ力が加わる。
私たちの身体には、生活しているだけでも絶えずさまざまな刺激が入っている。
それらの情報を神経系が調整し、「これは強く意識する必要がない」「これは危険なので注意した方がよい」と振り分けているのである。
痛みは、単純に刺激の強さだけで決まるものではない。
痛みを伝える働きと、痛みを抑える働き。そのバランスによって、最終的な感じ方が変わるのである。
「今日は痛い」は、ブレーキ側の変化かもしれない
車に例えると分かりやすい。
痛みを伝える仕組みをアクセル、痛みを抑える仕組みをブレーキと考えてみる。
痛みが強くなったとき、多くの人は
- 患部が悪化した
- 炎症がひどくなった
- 神経への圧迫が強くなった
と考える。つまり、アクセルが強く踏まれたと考えるわけである。
もちろん実際に組織の状態が変化し、刺激が強くなっている場合もある。
しかし、もう一つ考えなければならないことがある。
アクセルは昨日とそれほど変わっていないのに、ブレーキの効き方が弱くなっている可能性である。
これなら、身体の同じ場所に同じ程度の刺激が入っていても、昨日より今日の方が痛く感じることを説明できる。
「痛みが強い=身体の損傷が大きい」とは、必ずしも言い切れないのである。
なぜ寝不足や疲労で痛みが気になりやすくなるのか
十分に眠れて体調が良い日には、それほど気にならなかった肩や腰の違和感が、寝不足の日には妙に気になることがある。
仕事が忙しく、疲れ切った夕方になると、いつもの首の張りや手足のしびれを強く感じる人もいる。
風邪をひいたときや体調を崩したときに、普段なら気にならない身体の刺激まで不快に感じることもある。
このような変化をすべて「患部がまた悪くなった」と考える必要はない。
身体の状態によって、神経系が刺激を処理する環境も変化するからである。
睡眠、疲労、精神的な緊張、活動量など、さまざまな条件が重なることで、普段なら抑えられている刺激を強く感じる可能性がある。
だからこそ慢性的な痛みでは、症状のある場所だけを見続けても説明できないことがある。
ぶつけた場所をさすると楽になるのはなぜか
身体に痛みを抑える仕組みがあることは、私たちが日常的に行っている行動からもイメージできる。
たとえば、机の角に肘をぶつけたとき、多くの人は無意識にその周囲を手でさする。
「痛い!」と言いながら、なぜか手を当てたり、さすったりする。
実はこれにも意味がある。
触れたり押されたりした刺激が神経に伝わると、脊髄で痛みの信号が弱まり、脳に伝わりにくくなる仕組みがある。
これを「ゲートコントロール」と呼ぶ。
身体には最初から、入ってきた痛みを調整する仕組みが備わっているのである。
さらに痛みの調整には、脊髄だけでなく脳からの働きも関係する。
したがって、「どれくらい傷んでいるか」だけで、その人が感じる痛みの強さを正確に説明することはできない。
痛みが長く続くと神経は敏感になるのか
もう一つ知っておきたいのが「感作」という現象である。
痛みや強い刺激が繰り返し続くことで、神経系が以前よりも刺激に反応しやすくなることがある。
簡単にいえば、身体の「痛みセンサーの感度」が上がったような状態である。
- 以前なら気にならなかった刺激が気になる
- 同じ刺激なのに以前より痛く感じる
- 少し触れただけでも不快に感じる
このような変化が起こることがある。
さらに感作が強くなると、洋服が擦れる、布団が触れる、髪の毛が動くといった、本来なら痛みではない刺激まで痛く感じる場合がある。
これは「アロディニア」と呼ばれる現象である。
つまり、痛みが続いている人を見るときには、「どこが傷んでいるのか」だけではなく、「神経が刺激に対してどのくらい敏感になっているのか」という視点も必要なのである。
痛みが強い日に、無理に刺激を加えてよいのか
痛みが強くなると、
- 硬くなったからもっと伸ばそう
- 凝っているから強く揉もう
- 動かした方がいいから無理に運動しよう
と考えることがある。
しかし、神経系が過敏になっている状態で強い刺激を繰り返せば、その刺激そのものが新たな負担になる可能性がある。
大切なのは、「痛い場所をもっと刺激すること」ではない。
なぜ今日は痛みを強く感じているのかを考えることである。
- 前日はよく眠れたか
- 最近、仕事や家事が続いていなかったか
- 同じ姿勢が長時間続いていなかったか
- 活動量が急に増えていなかったか
- 身体の別の場所に違和感が出ていないか
こうした背景まで見ていくと、「痛みが増えた=患部が悪化した」という単純な見方では説明できなかった変化が見えてくることがある。
痛みの強さだけで身体の状態を判断しない
昨日の痛みが3で、今日は7だった。
それだけを見ると、「4も悪化した」と考えたくなる。
しかし、痛みは傷の大きさをそのまま数字にしたものではない。
身体から入る刺激と、それを伝える神経、脊髄や脳での処理、そして痛みを抑える仕組み。
これらが重なった結果として、私たちはその瞬間の痛みを感じている。
だからこそ、日によって痛みが変わること自体は、不思議なことではない。
見るべきなのは、「今日は何点痛いか」だけではなく、「なぜ今日は強く感じているのか」である。
痛い場所だけを追い続けるのではなく、睡眠や疲労、姿勢、活動量、身体に入っているさまざまな刺激まで含めて考える。
慢性的な痛みやしびれを理解するためには、この視点が重要なのである。
※強い痛みが急に出た、痛みが日に日に増している、しびれや麻痺が広がる、発熱を伴うなどの場合は、神経系の調整の問題とは限らない。こうした場合は、医療機関での確認が大切である。
