本来痛くない刺激が痛くなる仕組み
「服が擦れるだけでヒリヒリする」
「布団が触れるだけでも痛い」
「皮膚を軽く触られただけなのに、ビリッとする」
「痛いというより、触られるのが気持ち悪い」
このような症状があると、皮膚そのものに何か問題があるのではないかと考えたくなる。
もちろん、傷や炎症、皮膚疾患などによって触れると痛い場合もある。
しかし、皮膚に目立った異常がないにもかかわらず、本来なら痛くないはずの刺激を「痛い」と感じることがある。
このような状態をアロディニア(異痛症)という。
アロディニアを理解するうえで重要なのは、痛みを感じている場所だけを見るのではなく、その刺激を神経がどのように受け取り、脊髄や脳でどのように処理しているのかまで考えることである。
「触った感覚」と「痛み」は本来別の情報なのか
私たちの皮膚には、さまざまな感覚を受け取る仕組みが備わっている。
たとえば、
- 触られた
- 押された
- 冷たい
- 熱い
- 痛い
といった情報である。
服が皮膚に触れる、シーツが足に当たる、髪の毛が首に触れるといった刺激は、通常であれば「触れた」という感覚として処理される。それだけで強い痛みになることはない。
一方、針が刺さったり、強くつねられたり、組織が傷ついたりした場合には、身体を守るために「危険な刺激」として痛みの情報が伝えられる。
つまり本来は、触覚と痛覚では役割が違うのである。
ところが神経系の状態が変化すると、この振り分けがうまくいかなくなることがある。
その結果、通常なら「触れた」で終わる刺激まで、痛みとして強く感じるようになる。
問題は「刺激が強くなった」ことだけなのか
服が皮膚に触れる力が、昨日と今日で急に何倍にも強くなったわけではない。
それでも、ある日は何ともなく、別の日には触れただけで痛いことがある。
ここで考えなければならないのが、刺激を受け取る神経側の変化である。
痛みやしびれなどの刺激が長く続くと、神経系が以前より刺激に反応しやすくなることがある。
これを「感作」という。
分かりやすくいえば、神経の感度が上がっている状態である。
以前なら「1」の刺激として処理できていたものを、「3」や「5」のように強く受け取るようになる。
すると、
「少し触っただけなのに痛い」 「軽く押されただけなのにビリビリする」
といったことが起こりやすくなる。
脊髄には痛みを抑える仕組みもある
身体から入った刺激は、末梢神経を通って脊髄へ入り、そこから脳へ伝えられる。
しかし、脊髄は単なる電線の中継地点ではない。
入ってきた情報をそのまますべて脳へ送っているわけではなく、
「この刺激は強く伝える必要がある」 「この刺激は抑えておこう」
という調整も行われている。
つまり神経系には、痛みを伝える働きだけでなく、痛みを抑える働きも備わっているのである。
ところが、神経への刺激が長期間続いたり、神経そのものが傷ついたりすると、この抑える働きが十分に機能しなくなることがある。
そうすると、本来なら問題にならない触覚刺激まで、強い刺激として伝わりやすくなる。
アロディニアでは、「痛みを出す力が強くなった」だけではなく、「痛みを抑える力が弱くなった」という視点も重要なのである。
「痛い」と言わない人もいる
アロディニアというと、「触れるだけで激痛が走る」という状態を想像するかもしれない。
しかし、実際の感覚はそれだけではない。
「ゾワッとする」 「気持ち悪い」 「そこだけ触られたくない」 「何とも言えない嫌な感じがする」
という表現をする人もいる。
本人も「痛み」とは認識していないため、症状として伝えていない場合もある。
しかし、身体を軽く触った瞬間に身体を引いたり、表情が変わったりすることがある。
こうした反応も、感覚を処理する神経系が敏感になっていることを考える一つの手がかりになる。
そのため、症状を確認するときには、「痛いですか」だけではなく、
- 触られた感じは左右で同じか
- 嫌な感じやゾワッとする感じはないか
といった確認も重要になる。
傷が治ったあとにも過敏さが残るのはなぜか
分かりやすい例が、擦り傷や靴擦れである。
傷ができた直後は、皮膚そのものが損傷しているため、触れば当然痛い。
しかし、見た目の傷がかなり治ったあとでも、
「靴下が触れるとまだ痛い」 「そこだけ妙に敏感」
という状態が残ることがある。
この場合、「皮膚がまだ壊れている」とは限らない。
傷が治っていく過程と、周囲の感覚が元の状態へ戻っていく過程が、必ずしも同じ速さで進むわけではないからである。
手術痕や古いケガの跡などでも、見た目には治っていても、その周囲の感覚が左右で違っていることがある。
ただし、傷跡があるから、それが必ず症状の原因であるという意味ではない。身体全体を確認する中で、一つの情報として見る必要がある。
同じ刺激を繰り返す生活にも目を向ける
神経系の状態を考える場合、症状が出ている場所だけではなく、普段どのような刺激が身体へ入り続けているのかも見ておきたい。
たとえば、
- 長時間同じ姿勢を続ける
- 身体の同じ場所が洋服や椅子に当たり続ける
- 一日中スマートフォンを見て頭を下げた姿勢が続く
- 睡眠不足や疲労が続いている
こうしたものが単独でアロディニアを起こすということではない。
重要なのは、身体には毎日さまざまな感覚情報が入っており、その環境によって神経の反応の仕方も変わり得るということである。
「スマホが悪い」「姿勢が悪い」と一つの原因に決めつけるのではなく、同じ姿勢や同じ刺激が長時間続いていないか、睡眠や活動量はどうか、といった生活全体を見ることが必要である。
過敏な場所を強く刺激すればよいのか
触れるだけでも痛い場所があると、
「硬くなっているから揉んだ方がいい」 「慣れさせるために強く触った方がいい」
と考えることがある。
しかし、すでに神経系が刺激に対して過敏になっている場合、強い刺激を繰り返すことで、さらに反応しやすくなる可能性もある。
大切なのは、痛い場所へ刺激を増やすことではない。
まず、
- どの範囲が敏感なのか
- どのような刺激に反応するのか
- 左右で感覚に違いがあるのか
- 動きや姿勢によって変化するのか
- 他の場所にも感覚の違いがないか
こうしたことを確認しながら、なぜ神経がその刺激を痛みとして受け取っているのかを考える必要がある。
「痛い場所」だけではなく「感じ方」まで見る
服が触れるだけで痛い。布団が当たると気になる。軽く触られるだけなのに、なぜか嫌な感じがする。
このような症状は、単に「皮膚が弱い」「痛みに弱い」という話ではない。
刺激を受け取る末梢神経、その情報を調整する脊髄、さらにそれを認識する脳まで含めた神経系の働きが関係している可能性がある。
だからこそ、慢性的な痛みやしびれでは、「どこが痛いのか」だけでなく、「どのような刺激を、どのように感じているのか」を見ることが重要である。
本来なら痛くない刺激まで痛く感じるのであれば、さらに強い刺激を加える前に、神経系がどのような状態になっているのかを確認する。
痛みやしびれを考えるうえで、この視点は非常に重要なのである。
※皮膚の発赤・腫れ・発疹・熱感がある場合や、突然強い痛みが出た場合、筋力低下や麻痺などを伴う場合には、まず医療機関で原因を確認することが重要である。
