身体のつながりから考える
9月6日、キネシオテーピングスーパートレーニングの講義に参加してきた。
今回の講義では、太ももの内側にある内転筋群、太ももの前側にある大腿四頭筋、そして外側にある大腿筋膜張筋を中心に、実際に身体を検査しながらテーピングを行った。
今回も改めて感じたのは、
「弱い筋肉を見つけて、そこにテープを貼ればよい」というほど身体は単純ではない
ということである。
同じ筋肉でも、なぜ働きにくくなっているのかによって対応は変わる。
さらに、ある筋肉にとって良いテープが、別の動作ではかえって邪魔になることさえある。
テーピングで大切なのは「どこに貼るか」だけではなく、その前後で身体全体の働きがどう変化したのかを確認することである。
太ももの内側と体幹は別々に働いているわけではない
最初に取り上げられたのは内転筋群であった。
内転筋というと、一般的には「脚を内側へ閉じる筋肉」というイメージが強い。
しかし、筋肉は一つずつ独立して動いているわけではない。
講義では、太ももの内側と腹部周辺の筋肉の連結について説明があった。
特に大内転筋は、骨盤の坐骨まで付着しており、単に脚を内側へ動かすだけではなく、股関節や骨盤周囲の安定にも関係している。
実習でも、内転筋へのテーピングを行った後に、身体をひねる動きや腹部に力を入れる検査の反応が変化する場面が確認された。
ここから考えられるのは、
「腹筋が弱いから腹筋だけを鍛える」という発想だけでは不十分な場合がある
ということである。
身体は複数の筋肉が連携して動く。
体幹が使いにくくなっている背景に、股関節や太ももの内側の働きが関係していることもある。
逆に、脚の問題を考える際にも、腹部や骨盤の状態まで確認した方がよい場合がある。
テープは強く感じるほど効いているわけではない
太ももの内側は、テーピングが難しい場所でもある。
股関節や膝を動かすと皮膚のたるみ方が大きく変化するためである。
皮膚の状態を確認せずに長いテープをそのまま貼ると、
- つっぱる
- ゴワゴワする
- 動いたときに違和感が出る
- 皮膚への負担が増える
といったことが起こりやすい。
講義では、皮膚の「遊び」を確認し、その余分な動きをどう処理するかを細かく見ながら貼っていた。
そして印象的だったのが、
うまく貼れたテープほど、その存在を強く感じない
という考え方である。
サポーターのようにギュッと固定されている感じや、「貼ってもらって気持ちいい」という刺激の強さを求めるものではない。
皮膚と自然になじみ、動いているうちに貼っていることを忘れるくらいがよい場合もある。
テープを強く引っ張れば効果が大きくなるわけではないのである。
身体には「動くための隙間」が必要である
今回も繰り返し登場したのが、「隙間」という考え方であった。
皮膚、筋膜、筋肉は、一枚の塊として動いているわけではない。
それぞれがわずかに滑りながら動いている。
その間には体液があり、組織同士がスムーズに動く環境を作っている。
しかし、一部分に圧力が集中すると、組織同士の余裕が失われる。
すると、
- 皮膚がつまみにくい
- 筋膜が滑りにくい
- 筋肉が動きにくい
- 力が入りにくい
- 関節の動きがぎこちなくなる
といった変化が起こることがある。
さらに人間は立って生活しているため、重力の影響を無視することはできない。
上半身と下半身では体液の動き方も同じではない。
ただ「隙間を作ればよい」のではなく、どこに圧力が集まり、どこへ逃がした方がよいのかまで考える必要がある。
キネシオテーピングの役割の一つは、こうした皮膚や筋膜が動ける環境を作ることである。
大腿四頭筋は「一つの筋肉」ではない
次に扱ったのが大腿四頭筋である。
大腿四頭筋は名前の通り、
- 大腿直筋
- 内側広筋
- 外側広筋
- 中間広筋
という4つの筋肉からできている。
この中で大腿直筋だけは骨盤から始まり、股関節と膝関節の両方をまたいでいる。
一方、残りの3つは主に膝の動きに関係する。
ここがテーピングを考えるうえで重要である。
「大腿四頭筋を伸ばして貼る」と言っても、取る姿勢によって4つすべてが同じように伸びるわけではない。
実習では、太ももの前を大きく伸ばした状態でテープを貼ったところ、柔らかさは出ても、脚に力が入りにくくなるケースが確認された。
反対に、筋肉を必要以上に伸ばさずに貼ることで、力を発揮しやすくなるケースもあった。
つまり、
柔らかくしたいのか、力を出しやすくしたいのか
によって貼り方を変える必要がある。
「テープを貼って可動域が広がったから成功」とは限らない。
力が入りやすくなったか。
動きが安定したか。
別の筋肉に負担を移していないか。
そこまで確認する必要がある。
一つのテープが別の動きを邪魔することもある
今回、特に興味深かったのがこの部分である。
内転筋へのテープでは、内転筋そのものには良い反応が出ていた。
ところが、その状態で別の筋肉を検査すると、かえって力が入りにくくなる場面があった。
テープによって内転筋が使いやすくなった結果、本来は別の筋肉を使いたい動作でも、身体が無意識に内転筋を使おうとしたと考えられた。
これは臨床では非常に大切な視点である。
ある筋肉だけを検査すれば「良くなった」と判断できても、身体全体では違う反応が出ている可能性がある。
だからテープを何枚も追加すればよいわけではない。
必要最低限の刺激で、全体のバランスがどう変わったかを確認することが重要である。
太ももの外側の症状を、太ももだけで考えない
講義の後半では、大腿筋膜張筋について学んだ。
大腿筋膜張筋は骨盤の外側から始まり、腸脛靱帯へと続く筋肉である。
股関節を曲げたり、脚を外へ開いたり、内側へ回したりする動きに関係している。
この筋肉の働きが乱れると、症状は筋肉そのものだけに出るとは限らない。
股関節周囲から太ももの外側、膝の外側まで影響が広がる場合がある。
講義では、大腿筋膜張筋だけを見るのではなく、
- 股関節の回旋
- お尻の筋肉
- 外側広筋
- 腸脛靱帯
- 膝外側
- 腓骨頭周囲
まで確認していた。
特に膝外側から腓骨頭周囲は、アールカイロでも手足のしびれを見るうえで重要な場所である。
総腓骨神経は膝外側から腓骨頭・腓骨頸部周囲を通り、長腓骨筋の起始部付近へ向かう。
そのため、膝外側の配列や周囲の筋膜・筋肉の緊張によって、この神経が通る環境が窮屈になっていないかを確認することがある。
足の甲やすね外側のしびれがあるからといって、しびれている場所だけを見るのでは不十分なのである。
筋肉・筋膜だけとは別の見方もある
今回の講義では、解剖学的な筋肉や筋膜のつながりだけではなく、東洋医学で用いられる経絡・経穴という視点も紹介された。
腹部や足部の特定の経穴への刺激によって、筋肉の検査反応が変化するかを確認する実習も行われた。
これは筋肉や神経の解剖学的なつながりとは別の評価体系であるため、同じものとして扱うべきではない。
ただ、身体を見る方法を一つに限定せず、
「ここだけを触って変わらなければ、別の方向から確認してみる」
という臨床的な発想は参考になる。
もちろん、腹部の症状や内臓疾患そのものを筋肉検査やテーピングだけで判断することはできない。
必要な場合には医療機関での検査が前提となる。
「どこが悪いか」より「なぜそうなっているか」
今回の講義を通して改めて感じたのは、筋肉名を当てることが目的ではないということである。
大腿筋膜張筋が弱い。
内転筋が硬い。
大腿四頭筋が使えていない。
そこまで分かっても、まだ入口である。
なぜそうなったのか。
隣の筋肉との連携なのか。
骨盤や股関節の位置なのか。
皮膚や筋膜の滑りなのか。
神経が通る周囲の環境なのか。
それとも、別の場所をかばった結果なのか。
ここまで考えて初めて、どのような刺激を入れるべきかが見えてくる。
テーピングも「症状のある場所に貼るもの」ではない。
貼る前に身体を確認し、貼った後にもう一度確認する。
力が入りやすくなったのか。
動きやすくなったのか。
違和感は減ったのか。
逆に、別の場所が動きにくくなっていないか。
この繰り返しが重要である。
アールカイロでも、手足のしびれや神経痛、繰り返す痛みを見る際には、症状が出ている場所だけに原因を求めないようにしている。
今回学んだ内容も、身体のつながりをさらに細かく確認し、より適切な施術につなげるために活かしていきたい。
