「指先がしびれて細かい作業ができない」
「首を動かすと手にビリッと電気が走る」

こうした症状が続くと、多くの場合「頚椎の問題」と説明され、
手術を選択肢として提示されることも少なくない。

しかし、臨床では
頚椎だけでなく、腕や首の別の場所でも神経が同時に圧迫されている
ケースが存在する。

今回紹介するのは、
右手指から腕の外側、さらに左手指先にも広がるしびれが出現し、
「頚椎症で手術を勧められた」60代男性の症例である。
詳しく検査すると、症状は一つの原因ではなく、
複数の神経圧迫が重なって起きていたことが明らかになった。

• 60代男性・ケアマネジャー

• 既往歴：高血圧で月1回通院、降圧剤を服用

• 主な症状：
  　右手指から腕の外側にかけてのしびれと、左手指先のしびれ。
  　ボタンの脱着、キーボード入力、ペンや箸を持つ動作が困難。
  　首を動かすと、ある角度で右手にしびれが走る。
  　右側を下にして横向きに寝ると、右手の感覚がなくなるように感じる。

• 発症からの経過：
  　5か月ほど前、右手の小指と薬指の先に感覚の鈍さが出現。
  　放置していたところ、3か月前から指の根元までしびれが拡大。
  　かかりつけ医でビタミンB12（メチコバール）を処方されたが改善せず。

　2か月前、総合病院でレントゲンとMRI検査を受け、
　「頚椎症」 と診断され、すぐに手術を勧められた。
　しかし診断と治療方針に疑問を感じ、
　別の視点を求めて来院された。

神経学検査では、

• 人差し指～小指の先

• 手のひら

• 手首から肘にかけての小指側

で、右側を中心に感覚の鈍さが確認された。

筋力検査では、

• 右手首を曲げる筋

• 左右の指を曲げる筋

に明らかな低下がみられた。

触診では、

• 右腕の付け根後方に強い硬さと圧痛

• 押すと右腕と手指にしびれが再現

• 首の右前側（胸鎖乳突筋付近）に明確な張りと圧痛

が存在した。

筋肉テストでは、

• 大円筋（腕の付け根後方）

• 胸鎖乳突筋（首前側）

に機能低下が確認された。

これらを総合すると、

• 右側：
  　頚椎6–7番、頚椎7番–胸椎1番の間で神経根が圧迫
  　→ 右手指～腕外側へ放散する 頚椎症性神経根症

• 左側：
  　頚椎以外の部位で
  　正中神経・尺骨神経が圧迫されている可能性

という 左右で異なるメカニズム が成立していた。

施術の目的は、
神経の通りを複数箇所で同時に回復させることに置いた。

1. 末梢神経マニピュレーション
   　→ 左右の腕神経叢、正中神経、尺骨神経、左橈骨神経を解放。

2. 頚椎6–7番の歪み矯正
   　→ 神経根への圧迫を軽減。

3. 大円筋・胸鎖乳突筋へのキネシオテーピング療法
   　→ 過緊張を抑え、神経へのストレスを分散。

再検査では、

• 手の皮膚感覚が左右ともに改善

• 指と手首の筋力が回復

• 施術前に感じていたしびれが減少

という明確な変化が確認できた。
シャツのボタンの脱着も行いやすくなった。

発症から約5か月が経過していたため、
1回の施術ですべてが消失したわけではない。

しかし、

• 右手・左手ともにしびれの範囲が縮小

• 細かい手作業の不安が軽減

• 日常動作への支障が減少

といった実感が得られた。

頚椎症と診断されても、
すべての症状が頚椎だけで説明できるとは限らない。

本症例のように、

• 神経根

• 腕神経叢

• 正中神経・尺骨神経

が 同時に別々の場所で圧迫されている 場合、
手術をしても症状が残るリスクがある。

症状を正確に見極めるには、
「どこで神経が圧迫されているか」を一つずつ切り分ける視点が不可欠である。

※本症例は一例であり、
すべての方に同様の経過が当てはまるわけではありません。
症状や体質、生活背景によって回復過程は異なります。