― THE INSPIRE第3回で学んだ「手術痕・古傷・腹圧」から見る身体のつながり ―
先日、総合保証型セミナー「THE INSPIRE」第3回に参加してきた。
第1回・第2回では、「症状ではなく状態を見る」という考え方や、筋膜・皮膚感覚・腹圧・横隔膜などを通して身体を見立てる重要性を学んできた。
今回の第3回では、その考え方をさらに実際の臨床に近い形で確認する内容だった。
特に印象的だったのは、昔の手術やケガが、現在の痛みやしびれに関係することがあるという視点である。
肩が痛い。
腰が重い。
膝がつらい。
股関節が動かしにくい。
こうした症状があると、「今痛い場所」に原因があると考えがちである。
肩が痛ければ肩が悪い。
腰が痛ければ腰が悪い。
膝が痛ければ膝が悪い。
もちろん、症状の場所を確認することは大切である。
しかし実際には、痛みが出ている場所と、その原因がある場所は、必ずしも同じではない。
特に見落とされやすいのが、昔の手術やケガの影響である。
なぜ手術痕は皮膚だけの問題ではないのか
手術痕というと、皮膚に残った線や傷跡をイメージしやすい。
しかし手術では、皮膚だけでなくその下の組織にも影響が及ぶ。
筋膜、脂肪層、筋肉、腹膜、胸郭まわりの組織——身体の深い部分まで関係することがある。
たとえば
- 下腹部の手術痕がある場合、腹直筋や腹膜、骨盤底、股関節の動きに影響することがある
- 乳がん手術の痕がある場合、胸郭、肋骨、肩、首、腕の動きに影響することがある
- 腹部の手術歴がある場合、体幹の回旋、腰の張り、呼吸の入り方に影響することがある
これは「手術痕が悪い」という意味ではない。手術は命や生活を守るために必要な医療である。
問題は、手術後の身体が、その傷を含めてうまく連動できているかどうかである。
なぜケガのあと身体の使い方が変わるのか
交通事故、転倒、尻もち、階段からの転落、スポーツ中の強い負荷も、後々の症状に関係することがある。
その場で骨折がなかったとしても、身体は衝撃を受けている。
たとえば尻もちをついた場合、骨盤や股関節だけでなく、下腹部への圧力が変化することがある。内臓が下方向へ引かれ、下腹部の圧が高くなり、股関節の動きが悪くなることもある。
膝は、股関節と足首の間にある関節である。
股関節がうまく働かなければ、膝が代わりに負担を受ける。 足首が使えていなければ、膝で衝撃を受け止めることになる。
膝が痛いからといって、膝だけを見ても十分ではないことがある。
痛い場所と原因の場所は、なぜズレるのか
身体は全身でつながっている。
ただし「つながっているから何でも関係する」という話ではなく、実際にどこが影響しているのかを確認することが重要である。
- 左肩が痛い場合でも、右の肋骨や横隔膜、腹圧の問題が関係していることがある
- 腰が痛い場合でも、下腹部の圧力や過去の手術痕、呼吸の浅さが関係していることがある
- 足のしびれがある場合でも、腰だけでなく股関節・骨盤底・膝裏・足首・過去の外傷を確認する必要がある
症状が出ている場所は、あくまで結果である。
その背景には
- 呼吸の浅さ
- 横隔膜の緊張
- 腹圧の偏り
- 筋膜の滑走不全
- 手術痕による引きつれ
- 過去のケガによる防御反応
などが隠れていることがある。
そのため、痛い場所だけを揉む・伸ばす・温めるという対処では、一時的に楽になってもまた戻ってしまうことがある。
なぜ「昔のこと」が見立てに重要なのか
今の症状だけでなく、過去の情報が身体を理解する手がかりになることがある。
- いつから痛いのか
- 過去に手術を受けたことがあるか
- 交通事故や転倒を経験しているか
- 骨折、脱臼、強い打撲があったか
- 出産や腹部手術の経験があるか
昔の手術やケガが必ず現在の症状の原因になるわけではない。
しかし、関係している可能性を最初から除外してしまうと、重要な見落としにつながることがある。
「もう治っているから関係ない」 「かなり前のことだから言わなくていい」
そう思っていることほど、実は身体の見立てに必要な情報である場合がある。
まとめ
昔の手術やケガは、今の痛みやしびれに関係することがある。
手術痕は皮膚表面だけの問題ではなく、筋膜や組織の連動に影響することがある。
転倒や尻もち、交通事故、スポーツでの強い負荷も、その後の身体の使い方を変えることがある。
痛い場所と原因は、必ずしも同じではない。
肩の痛みの背景に胸郭や手術痕が関係していることもある。 膝の痛みの背景に股関節や下腹部の圧が関係していることもある。
大切なのは、症状だけを見ることではなく、身体全体のつながりを見ることである。
何度も同じ症状を繰り返す場合や、施術してもすぐ戻ってしまう場合、検査で異常なしと言われてもつらさが残る場合は、過去の手術やケガも含めて身体の状態を見直すことが手がかりになることがある。
症状が長引く場合や日常生活に支障が出る場合は、医療機関や専門家への相談も大切な選択肢のひとつである。
