― キネシオテーピング療法を、より深く臨床に活かすために ―
2026年5月17日、福岡で開催された第42回KT学術臨床大会に参加してきた。
KT学術臨床大会は、キネシオテーピング療法に関わる医療従事者、治療家、指導者、会員が全国から集まり、臨床報告や研究発表、実技共有、意見交換を行う学びの場である。
今回の参加目的は、主に5つあった。
1つ目は、キネシオテーピング療法に関する最新情報を得ること。
2つ目は、臨床に対する見識をさらに深めること。
3つ目は、全国の先生方と情報交換を行うこと。
4つ目は、新しい評価法や技術を習得すること。
5つ目は、同じキネシオテーピング療法を学び、実践している会員の先生方と交流することである。
アールカイロでは、手足のしびれや神経痛、慢性的な痛み、術後の違和感、姿勢や動作の問題に対して、キネシオテーピング療法を重要な施術の一つとして取り入れている。
そのため、今回の大会参加は、単に「新しい貼り方を覚える」ことが目的ではない。
身体をどのように見立て、どのように変化へ導くのか。
その視点を深めることこそが、最大の目的であった。
痛みを取るだけでは、本当の意味での改善とは言えない
今回の大会で特に印象に残ったのは、整形外科医である田中秀先生の講演である。
講演テーマは、
「いつまでも動ける体をつくる30代からのアンチエイジング戦略」
であった。
従来の医療では、痛みを取ること、炎症を抑えること、マイナスの状態をゼロに戻すことが中心であった。もちろん、それ自体は非常に重要である。痛みが強ければ日常生活に支障が出る。眠れない、歩けない、仕事に集中できない、趣味を楽しめない。そうした状態をまず軽減することは、医療や治療において欠かせない役割である。
しかし、痛みが一時的に軽くなっても、また同じように痛みを繰り返す人は少なくない。
なぜ再発するのか。
それは、痛みの背景にある身体の状態が変わっていないからである。
筋力低下、姿勢の崩れ、動作パターンの乱れ、栄養不足、睡眠不足、慢性炎症、酸化ストレス、糖化ストレス、自律神経の乱れ。こうした問題が残ったままであれば、痛みだけを一時的に抑えても、また同じ場所、あるいは別の場所に症状が出やすくなる。
これは、アールカイロの臨床でも日々感じていることである。
手足のしびれや神経痛も同じである。
しびれている場所だけを見ても、本当の原因にたどり着けないことがある。神経そのものの問題だけでなく、神経の通り道、筋膜の滑走、関節の動き、呼吸、姿勢、血流、リンパ、栄養状態、生活習慣などが複雑に関係していることが多い。
つまり、痛みやしびれは「結果」であり、その前に身体の状態の崩れがある。
だからこそ、症状だけを追いかけるのではなく、症状が出る前から崩れていた身体の状態を見る必要がある。
キネシオテーピングは「動ける体」への橋渡しである
今回の講演で大きく共感したのは、キネシオテーピングを治療のゴールではなく、動ける体へ向かうための橋渡しとして捉える考え方である。
痛みがある。
だから動けない。
動かないから筋力が落ちる。
筋力が落ちるから関節や神経への負担が増える。
その結果、さらに痛みやしびれが出やすくなる。
この悪循環に入ると、身体はどんどん回復しにくくなる。
キネシオテーピングは、この流れを断ち切るために活用できる可能性がある。
テープによって皮膚や筋膜にやさしい刺激を入れることで、痛みを「動けるレベル」まで下げる。筋肉が働きやすい状態をつくる。関節や姿勢の安定を助ける。正しい動きを感じやすくする。そして、その状態を使って、運動療法や日常動作の改善につなげていく。
ここで大切なのは、テープに依存することではない。
アールカイロでは、キネシオテーピングを
「テープなしでも動ける体に戻していくための補助」
として考えている。
テープを貼ることそのものがゴールではない。
テープによって身体が動きやすくなる。
動ける感覚を取り戻す。
その感覚を身体に再学習させる。
最終的には、テープがなくても自然に動ける状態を目指す。
これが、キネシオテーピング療法の本来の価値であると考えている。
「貼る技術」ではなく「見立てる技術」
大会では、筋出力、術後の痛み、腰痛、圧迫骨折、手指のしびれや動かしにくさ、作業環境に合わせたテーピングなど、さまざまな臨床報告が行われた。
その中で改めて感じたのは、キネシオテーピングは単なる「貼る技術」ではないということである。
どこに貼るか。
どの方向に貼るか。
どの深さに働きかけるか。
どの筋肉、筋膜、関節、神経の流れを見ているのか。
貼った後に、身体がどう変化したのか。
ここまで確認して、初めて臨床で使える技術になる。
同じ腰痛でも、原因は人によって違う。
同じしびれでも、神経の圧迫だけが原因とは限らない。
同じ膝の痛みでも、膝そのものではなく、足首、股関節、骨盤、呼吸、姿勢が関係していることもある。
だからこそ必要なのは、症状名だけで判断することではなく、
その人の身体が今どういう状態になっているのかを見立てること
である。
今回の大会でも、会長講演の中で、
「症状ではなく、状態を見る」
という視点が強調されていた。
これは、アールカイロが普段から大切にしている考え方と一致する。
痛い場所だけを見るのではない。
痛みが出る前から、どこに負担が積み重なっていたのかを見る。
しびれている場所だけを見るのではない。
神経が無理をして働かなければならなくなった背景を見る。
その見立てがあってこそ、テーピングも施術も意味を持つのである。
術後の痛みや瘢痕まわりへの可能性
今回の発表の中には、内視鏡手術後の痛みや、創部周囲の違和感に対するテーピングの報告もあった。
手術後は、傷口そのものだけではなく、その周囲の皮膚、筋膜、血流、リンパの流れ、呼吸や姿勢の変化によって、痛みや動きにくさが残ることがある。
アールカイロでも、過去の手術痕や瘢痕組織が、筋膜を介して離れた部位の不調に関係していると考えられるケースを経験する。
今回の発表では、創傷保護材を避けながらテープを使い、皮膚に余裕を作ることで動作時痛が軽減し、日常動作がしやすくなった症例が紹介されていた。
これは、術後の違和感や古い傷あとが気になる方に対しても、今後さらに慎重に応用していきたい内容であった。
もちろん、術後の状態は個人差が大きく、傷口や炎症の状態、医師からの指示を無視して行ってよいものではない。だが、適切な時期と方法を見極めることで、皮膚や筋膜の滑走を助け、身体を動かしやすくする可能性は十分にあると感じた。
手指のしびれ・動かしにくさへの応用
午後のワークショップでは、手指へのテーピングと運動療法の実技も行われた。
手指のしびれや動かしにくさというと、神経だけの問題と思われがちである。もちろん、神経の問題は重要である。しかし実際には、皮膚の動き、筋膜の滑走、指の関節の硬さ、腱の動き、手首や前腕の緊張、神経の通り道、感覚入力の低下などが複雑に関係していることがある。
手指への細いテーピングによって、皮膚や関節周囲の動きを助ける。
その上で、軽い運動療法を行う。
すると、握る、つまむ、開くといった動作が変わる可能性がある。
アールカイロには、手根管症候群、尺骨神経の症状、橈骨神経の問題、手指のこわばり、術後の違和感などで来院される方もいる。
今回学んだ内容は、そうした方への施術やセルフケア指導にも活かせると感じた。
特に重要なのは、強く動かすことではない。
痛みを我慢して無理に動かすのではなく、動きやすい環境を作ってから、軽い刺激で神経と筋肉の働きを促すことが重要である。
ここを間違えると、リハビリやセルフケアがかえって負担になる。
手指のように繊細な部位では、なおさら丁寧な評価と刺激量の調整が必要である。
学び続ける理由
今回の大会に参加して、改めて感じたことがある。
技術は、一度覚えたら終わりではないということである。
身体の見方も、テーピングの使い方も、臨床での応用も、常に更新されていく。
特にキネシオテーピング療法は、筋肉だけを見るものではない。
皮膚、筋膜、神経、血流、リンパ、呼吸、姿勢、重心、内臓、日常動作。
こうした全体のつながりの中で身体を見ていく必要がある。
だからこそ、最新情報を学び、全国の先生方と情報交換をし、自分の臨床を見直す時間はとても大切である。
患者さんの身体は一人ひとり違う。
同じ症状名でも、必要な対応は同じではない。
今回の大会では、研究発表、症例報告、実技ワーク、先生方との交流を通して、多くの学びを得ることができた。
そして、その学びは最終的に、アールカイロに来てくださる方の施術へ還元するためのものである。
まとめ
第42回キネシオテーピング学術臨床大会では、キネシオテーピング療法の可能性を改めて深く学ぶことができた。
