――安易なマッサージが“回復を遠ざける”理由――
「マッサージを受けた直後は楽になるのに、翌日になると余計につらくなる」
「最近は、揉んでもらうたびに体が弱くなっていく気がする」
「このまま強く揉み続けて、本当に大丈夫なのだろうか」
こうした違和感を抱えながらも、
「でも、その場では楽になるから」
「他に方法がわからないから」
と、同じことを繰り返している人は少なくない。
実はその感覚は、気のせいではない。
神経の視点から見ると、
“強く揉むほど悪化する体の状態” は、確かに存在する。
痛み・しびれは「筋肉の問題」とは限らない
多くの人は、
「痛い=筋肉が硬い」
「揉めばほぐれる」
と考えがちである。
しかし、臨床の現場で見ていると、
痛みやしびれの原因は筋肉そのものではないケースが非常に多い。
神経学では、感覚は次のように定義される。
感覚とは、
受容器が刺激を受けて発火し、
その情報を脳が感覚として認識した状態である。
つまり、
受容器が発火していない痛みは、本来の「感覚」ではない。
慢性的に続く痛みやしびれの多くは、
筋肉や皮膚ではなく、
脳や神経系の中枢側で作られている痛みに移行している。
この状態で
「とにかく揉む」
「強い刺激を入れる」
という対応をすると、回復どころか逆方向に進むことがある。
強い刺激が“危険”になる理由①
― 神経にとっては「負荷」になる
マッサージが強くても弱くても、
神経にとっては刺激であることに変わりはない。
問題は、
その刺激を処理できる神経の状態かどうかである。
すでに
・感覚の調整機構が低下している
・神経の抑制がうまく働いていない
・過敏な状態が続いている
こうした体に対して強い刺激を入れると、
神経は「回復」ではなく
防御反応としての過剰反応を起こす。
結果として、
・痛みが増す
・しびれが広がる
・疲労感が強く残る
といった状態が起こりやすくなる。
強い刺激が“危険”になる理由②
―「好転反応」という言葉で片づけてはいけない
「翌日つらくなるのは好転反応です」
こう説明された経験がある人も多いかもしれない。
しかし神経学的に見ると、
好転反応という概念は存在しない。
・刺激後に痛みが増す
・だるさが強く残る
・しびれが悪化する
これらは回復反応ではなく、
生理的な悪化反応である。
本当に体が回復に向かっている場合、
痛みの質が変わる
動作が楽になる
感覚の輪郭がはっきりする
といった変化が現れる。
「我慢すれば良くなる」は、
神経の視点では成立しない。
強い刺激が“危険”になる理由③
― 辺縁系の痛みは、揉むほど固定される
強く揉んでも
叩いても
押しても
ほとんど反応が変わらない。
それでも「痛い」「つらい」という訴えだけが強い。
この場合、痛みはすでに
辺縁系(感情・記憶に関わる脳の領域)が主導している
可能性が高い。
この段階で強刺激を繰り返すと、
・「痛み=危険」という記憶が強化され
・神経がさらに過敏になり
・慢性化・固定化が進む
結果として、
「触られるほど悪化する体」 が出来上がってしまう。
なぜ「その場では楽」なのに悪化するのか
一時的に楽になる理由は確かにある。
・皮膚刺激による一過性の抑制
・注意がそれることによる軽減
・安心感や期待による心理的効果
しかしそれは、
神経の問題が解決したわけではない。
抑制が切れた瞬間、
神経は元の、あるいはそれ以上に過敏な状態に戻る。
これが、
「翌日から悪化する」
「回数を重ねるほど効かなくなる」
正体である。
アールカイロが「強く揉まない」理由
アールカイロでは、
痛みやしびれに対して
強い刺激を基本としない。
理由は明確である。
・神経が処理できない刺激は入れない
・感覚が正しく受け取れる状態を整える
・運動と感覚の反射を利用する
この方が結果として、
回復が早く、再発しにくいからである。
「効いている感じ」より「機能が戻ること」
強さは、治療効果の指標ではない。
気持ちよさも、回復の証明ではない。
大切なのは、
神経が正しく働き始めたかどうか。
・動作が自然になる
・無意識の緊張が抜ける
・感覚が過敏でも鈍麻でもなくなる
こうした変化こそが、
本当に体が回復に向かっているサインである。
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強い刺激は「効く」のではなく「負荷」になることがある
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慢性的な痛み・しびれは、揉むほど悪化する場合がある
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好転反応という言葉で片づけてはいけない
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神経の状態を無視したマッサージは危険
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必要なのは「刺激」ではなく「調整」
もし
「揉んでも良くならない」
「触られるほど悪化する」
そんな経験があるなら、
それは体が出している重要なサインかもしれない。
