——静脈と神経の“しくみ”からわかりやすく解説する
「座っているとしびれてくる」「立ちっぱなしの仕事で夕方がつらい」「同じ姿勢を続けていると痛みが増す」。
このような訴えは、当院でも非常に多いものである。
多くの方は、「姿勢が悪いから」「年齢のせいだ」と考えるが、実際の原因はもっとシンプルで、もっと“身体の仕組み”に根ざしたものである。
同じ姿勢が症状を悪化させる背景には、血流(特に静脈)と神経の関係が深く関わっている。
本記事では、この「なぜ?」を誰でも理解できるように整理し、今日からできる簡単な対策まで紹介する。
■ 最初にダメージを受けるのは「神経」ではなく「静脈」である
身体の中には「動脈・静脈・神経」が束になって通っている。
一般的には「神経が圧迫されて痛みが出る」というイメージが強いが、実際には神経より先に“静脈”がつぶれるのである。
静脈は薄いゴム管のような構造をしており、とても弱い。
壁が薄く、筋肉のような厚みもない。
そのため、同じ姿勢が続くだけで外側から簡単に押しつぶされ、血液が流れにくくなる。
一方、動脈は厚い筋肉の壁があり、血圧にも強い。
神経も髄鞘という保護層で守られている。
つまり、最初にトラブルが起きるのは「一番もろい静脈」なのである。
■ 静脈がつぶれると、神経は酸欠になる
静脈が押しつぶされて血液が戻りにくくなると、いわゆる“うっ血”状態が起きる。
うっ血すると、動脈からの新しい血液が入りにくくなる。
これはホースの出口が詰まって水が出ない状態に似ている。
神経が正常に働くには、血液によって届けられる酸素と糖が必要である。
これらが減ると、神経のエネルギー源であるATPが作れなくなり、神経は“酸欠”に陥る。
酸欠の神経は、電気信号を安定して流せない。その結果、
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しびれ
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ビリビリ感
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重だるさ
といった症状が現れる。
これは決して「神経が壊れた」わけではなく、神経の環境が一時的に悪化しているにすぎない。
■ ではなぜ「同じ姿勢」で悪化するのか?
静脈は、自分で血液を押し上げる力を持たない。
血液が心臓に戻るためには、筋肉が縮んだり緩んだりする「筋ポンプ」が必要である。
特に足では、ふくらはぎの筋肉が“第二の心臓”と言われるほど重要である。
しかし、同じ姿勢で長時間固まってしまうと、筋肉が動かないため筋ポンプが働かない。
すると静脈弁(血液の逆流を防ぐ“フタ”のような構造)が動かず、血液が下半身に溜まりやすくなる。
その結果、
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長く座ると足がしびれる
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立ちっぱなしで夕方に痛む
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横になり続けて腰が重くなる
といった現象が起きるのである。
つまり、痛みの正体は「姿勢の悪さ」ではなく
“血液が流れない時間が長いこと”そのものである。
■ 強いストレッチは逆効果になることがある
しびれや痛みがあると、「伸ばせばほぐれるのでは?」と考える人が多い。
しかし、強いストレッチはかえって逆効果になる場合がある。
筋肉には“伸びすぎを防ぐセンサー”があり、強く引き伸ばされると防御的に筋肉を固める反応が起きる。
この状態は、筋肉が緊張し血流がさらに悪化するため、しびれや痛みが強くなる原因になる。
また、酸欠状態で弱っている神経に強い牽引刺激を加えると、神経そのものが刺激に過敏になり、ビリッとした痛みが増えることもある。
■ 正解は「1〜2時間に一度の小さな動き」である
同じ姿勢による悪化を防ぐ最も効果的な方法は、“強いストレッチ”ではなく
小さな動きをこまめに挟むことである。
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30秒だけ立ち上がる
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数十歩歩く
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足首を回す
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姿勢を変える
これだけで、筋ポンプが働き、静脈弁が動き、血流が一度リセットされる。すると、神経への酸素供給が回復し、症状が軽くなる。
大切なのは“回数”であり、“大きさ”ではない。「足りないより、少しでも動く」が神経と静脈には最も優しい。
■ 温めることも効果的である
血流低下による症状の場合、温めるケアは非常に相性が良い。とくに温めると効果が出やすいポイントは以下の4つである。
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仙骨(腰の中心)
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膝裏のすぐ上(膝窩動脈)
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首の付け根
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かかと
ここには太い動脈が通っているため、温めると全身の巡りが戻りやすい。湿布のように冷やすのではなく、温めて巡りを改善するほうが“しびれや痛みに合っている”人は非常に多い。
■ 結論:同じ姿勢での痛みは「血流」と「神経の酸欠」が原因である
同じ姿勢で症状が悪化するのは、姿勢そのものの問題ではない。
静脈の流れが止まり、神経が酸欠となり、環境が崩れることでしびれや痛みが出ているのである。
したがって、改善のポイントは次の3つである。
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長時間の同じ姿勢を避ける
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強いストレッチではなく“小さな動き”を積み重ねる
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必要に応じて温めて血流を戻す
身体の仕組みがわかると、対処法は驚くほどシンプルになる。
今日からできる小さな習慣で、しびれや痛みは大きく変わり始めるはずである。
