〜光と姿勢がつくる“痛みや違和感”の原因とは〜
スマートフォンが生活の必需品となった今、「スマホの使い方が“神経の誤作動”を引き起こしている」という事実をご存知だろうか。
なかなか取れない痛みや、原因のわからない違和感。
それらが「ケガ」や「骨のゆがみ」ではなく、“脳や神経の過敏さ”から来ている可能性があるとしたら——?
本記事では、スマホと痛みの意外な関係について、最新の神経学的な視点からわかりやすく解説していく。
■ 痛みは“感じ方”の異常でも起こる
そもそも「痛み」とは、何かが壊れたときにだけ起きるわけではない。
神経が“誤って過剰に反応してしまう”状態、つまり「感作(かんさ)」や「神経の過敏化」によっても、痛み・しびれ・違和感・不快感などは生じる。
実際に当院にも、レントゲンやMRIでは異常がないにもかかわらず、「肩が重くてだるい」「風が当たるとチクチクする」「寝るときに脚がゾワゾワする」といった悩みを訴える方が多数来院されている。
■ スマホの姿勢が神経を誤作動させる理由
現代人に最も多い“無意識の神経ストレス”が、「うつむいたままスマホを長時間見る」という習慣である。
この姿勢が続くと、次のような影響が出る:
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首が前に出ることで、頸部の筋肉(斜角筋(しゃかくきん)・胸鎖乳突筋(きょうさにゅうとつきん)など)が緊張
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頭の位置が固定されることで、内耳(前庭感覚:ぜんていかんかく)への刺激が偏る
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眼球の動きが制限され、視覚-脳連動の調整が低下
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呼吸が浅くなり、脳の酸素供給が減る
結果として、脳や神経系が“ずっと緊張状態”になり、神経の発火が止まらなくなる。
これは「脳の覚醒」とも呼ばれる状態で、感覚が研ぎ澄まされすぎ、日常の小さな刺激がすべて“強すぎる”と感じてしまうようになる。
■ 光刺激が“眠れない・チカチカする”の正体に
とくに問題となるのが、「寝る直前までスマホを見る」「布団の中でスマホを見ながら眠る」習慣である。
スマホやタブレットの画面には強いLED光(とくにブルーライト)が含まれており、これは網膜→視神経→脳の視床下部を通して、“今は昼だ”という信号を送り続ける。
その結果、
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メラトニン(眠気を促すホルモン)の分泌が止まり
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脳が覚醒状態を維持し
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三叉神経を通じて目の周辺が“興奮モード”に入り続ける
つまり、「目がチカチカして眠れない」「布団に入っても寝付けない」といった症状の背景には、“目ではなく神経が興奮している”という構造がある。
■ 実際の臨床例:白内障術後の目の違和感
70代の女性で、白内障手術を受けた後に「目がチカチカする」「黒い点が見える」「まぶしくて眠れない」と訴えて来院された方がいた。
問診を進める中でわかったのは、「毎晩、布団に入ってからスマホを4時間以上見て、目が疲れて眠くなるのを待っている」という習慣。
この方の場合、手術後の眼球周辺に残る瘢痕(はんこん)組織が三叉神経を刺激しやすい状態になっていたこともあり、
「LED光による脳の覚醒」+「眼球周囲の神経刺激」+「睡眠リズムの乱れ」が重なっていたと考えられる。
施術では、目の周辺の皮膚・筋膜・神経の緊張をゆるめるアプローチを行ったところ、施術直後には「黒点が1/10に減った」と本人が報告するほどの変化が見られた。
■ スマホによる“脳の疲労”は慢性痛を引き起こす
こうした脳の興奮状態は、一見「痛みとは関係なさそう」に思えるが、
神経の働きを過敏にし、刺激に対して“痛い”と認識しやすくなる下地を作ってしまう。
このようなメカニズムを通じて起きる代表的な症状には、以下のようなものがある:
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肩こり、首こりが治らない
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睡眠が浅く、夜中に何度も目が覚める
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腕や脚に「触れたくない」「ゾワゾワする」感じがある
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着ている服の縫い目があたって痛い(アロディニア)
つまり、スマホの使い方次第で「本来なら痛みではない刺激が“痛み”として感じられてしまう神経回路」ができあがってしまうのだ。
■ 小さな習慣が“大きな誤作動”をつくる
スマホの姿勢や使う時間帯、光の強さ、目の疲れ。
どれも普段は見過ごしがちだが、神経の誤作動=感作(かんさ)や慢性痛の背景には、こうした「日常の小さな刺激」が積み重なっている。
「どこも壊れていないのに、ずっと痛い」「違和感が消えない」「眠れない」
——そういったとき、まずはスマホの使い方を見直してみる価値は十分にある。
