――「体の痛み」と「感じ方の痛み」の違い――
痛み止めをすすめられても、どこか違和感が残る理由
痛みやしびれが続くと、「痛み止めを飲めばいい」と勧められることがある。
それでも「できれば飲みたくない」「薬に頼り続けるのは違う気がする」と感じる人は少なくない。
この感覚は、気のせいでも根性論でもない。
むしろ、今の痛みの性質を、体が正確に感じ取っているサインである可能性がある。
痛みには二つのタイプがある
痛みには大きく二つのタイプがある。
ひとつは、ケガや炎症など、体に起きたトラブルが原因の「体の痛み」である。
この場合、体の痛みセンサーが強く反応しているため、痛み止めや湿布が役立ちやすい。
もうひとつは、痛みが長引くことで「感じ方」そのものが敏感になってしまう痛みである。
慢性痛、長く続くしびれ、むずむず脚症候群のような落ち着かなさは、こちらが関係することが多い。
問題は「体」ではなく、脳の処理が過敏になっていること
脳には、
・痛みを受け取る働き
・危険度を判定する働き
・不安や緊張と痛みを結びつける働き
があり、日々の刺激を総合して「痛い」「大丈夫」を決めている。
ところが、ストレス、睡眠不足、同じ姿勢、痛みへの恐れが続くと、この仕組みが疲れて過敏になる。
例えるなら、火災報知器の感度が上がり、少しの煙でも鳴り続ける状態である。
建物が燃えているわけではなく、警報が鳴りっぱなしなのである。
なぜ痛み止めが効きにくくなるのか
このタイプの痛みでは、痛み止めが効きにくいことがある。
薬は主に体のセンサーを落ち着かせるが、過敏になった「感じ方」そのものを静める力は強くないからである。
その結果、
「飲んでも変わらない」
「一時的に楽でも、また戻る」
と感じやすくなる。
ここで重要なのは、痛み止めが効かない=重症ではないという点である。
問題の中心が体ではなく、「感じ方のスイッチ」に移っているだけであり、方向性を変えれば改善は十分に狙える。
「飲まない」という選択は、「何もしない」ことではない
「飲まない」を選ぶことは、「何もしない」と同義ではない。
我慢して放置するのではなく、体と脳が安心できる条件を増やしていくことが要点である。
具体的には、
・深い呼吸を取り戻す
・姿勢と胸郭の動きを整える
・短い散歩や足踏みなどの軽い動きを入れる
・皮膚にやさしい刺激を与える
・冷やしすぎず、適度に温める
どれも派手ではないが、体が本来持っている**「痛みを静める仕組み」**を起動しやすくする。
目指すのは、痛み止めをやめることではない
目標は、痛み止めをやめることではない。
痛み止めが必要なくなる状態をつくることである。
感じ方が落ち着けば、自然と薬に頼らない時間が増えていく。
「原因がわからない痛み」に対する一つの視点
もし、
「原因がわからない」
「検査は問題ないのに続く」
「薬が合わない」
と感じているなら、一度「感じ方」の側から整える視点を持ってほしい。
痛みは敵ではない。
体を守ろうとする反応が、少し過敏になっているだけのことも多い。
むずむず脚症候群は、感じ方の問題が中心になる
むずむず脚症候群は、痛み止めが効きにくい代表例である。
足そのものの炎症というより、夜間に感じ方が高ぶりやすいリズムの乱れが関係し、呼吸や軽い下肢運動で落ち着く人が多い。
大切なのは、怖がって刺激をゼロにしないことだ。
動かないほど体は固まり、呼吸は浅くなり、脳は「危険だ」と学習しやすくなる。
痛みが強い日の過ごし方
痛みが強い日は、無理な運動は必要ない。
「小さく動く」「温める」「早めに寝る」
それで十分である。
当院が大切にしている考え方
当院では、痛みをただ我慢させる説明はしない。
薬を否定もしない。
必要に応じて使いながら、呼吸・姿勢・皮膚刺激・動作を組み合わせ、感じ方の過敏さを下げる道筋を一緒に作る。
「痛み止めを減らしたい」
「飲んでも効かない」
そう感じた時点で、相談する価値は十分にある。
今日からできる、小さな一歩
痛みの原因探しで迷子になるより、まずは反応を落ち着かせる。
深呼吸を3回、足首をゆっくり回す、首の付け根を温める。
その小さな一手が、過敏なスイッチを切り替えるきっかけになる。
読み終えた今、痛み止めを飲むかどうかで悩む前に、
「今日は感じ方を落ち着かせる日」と決めてみてほしい。
明日は少し変わる。
続く痛みほど、方向転換が効く。
焦らず、整える。
体は変わる。
感じ方も、戻せる。
その一歩からである。
