「もう治ったと思っていたのに…」
「今回は軽く済んだはずなのに…」
「しばらく調子が良かったのに、また腰をやった」
治療院でよく聞く言葉である。
痛みが落ち着き、動けるようになり、日常生活も問題なく送れていた。
それなのに、ある朝ふと立ち上がった瞬間、靴下を履こうとした瞬間、顔を洗おうと前かがみになった瞬間に――また痛める。
この現象は、決して珍しいものではない。
そして多くの場合、こう考えられている。
「まだ骨がズレていたのかもしれない」
「筋肉が弱っていたのだろう」
「年齢のせいだろう」
しかし、実際にはそれだけでは説明がつかないケースが圧倒的に多い。
構造が戻るから、再発するのではない
一般的には、
骨がズレる
→ 施術で整える
→ 時間が経つとまたズレる
というイメージが持たれている。
だが身体の中で起きている順序は、実は逆である。
神経の働く条件が乱れる
→ 筋肉の緊張や出力が変化する
→ その結果として姿勢や関節の位置が変わる
つまり、
骨や関節の位置は「原因」ではなく「結果」である。
整えても戻るのは、構造の問題ではなく、身体を制御している神経側の条件が変わっていないためである。
身体には「起動直後」がある
ここで重要なのが、朝の身体の状態である。
起きた直後の身体は、例えるならエンジンをかけた直後の車と同じである。
・神経の伝達はまだ鈍い
・筋肉への出力は不安定
・感覚の精度も低い
・エネルギー産生(ATP)も立ち上がり途中
この状態で、いきなり日中と同じ動きをしようとすればどうなるか。
身体は「危険」と判断し、防御反応を起こす。
それが、急な筋収縮であり、動きのロックであり、いわゆるぎっくり腰や再発性の痛みである。
つまり多くの再発は、
「治っていなかった」のではなく
「身体がまだ起動していなかった」
という状態で起きている。
動くと楽になる人ほど、朝に弱い
特徴的なのが、
・動いていると楽になる
・昼や夕方は調子が良い
・朝が一番つらい
というタイプである。
この場合、患部そのものが壊れている可能性は低い。
本当に組織が損傷しているなら、
時間帯に関係なく、着地するたび、動かすたびに痛む。
朝だけ強く出て、動くと消える痛みは、
痛みの制御システム(神経の調整機構)が立ち上がっていない状態
であることが多い。
神経には、痛みを「ゼロにする」のではなく、
必要な情報だけを通し、過剰な信号を抑える機能がある。
この機能が眠ったまま動き出すと、
本来なら問題にならない刺激でも「危険」と誤認識され、強い痛みとして感じてしまう。
深呼吸は「神経の暖気運転」になる
ここで重要になるのが呼吸である。
呼吸は単なる酸素補給ではない。
・脳幹の呼吸中枢を刺激する
・自律神経を切り替える
・筋肉の出力バランスを整える
・痛みの調整回路を起動させる
という役割を同時に持つ。
特に重要なのは吐く呼吸である。
多くの人は「吸う」ことばかり意識するが、
神経を整えるには、まずゆっくり吐くことが必要になる。
しっかり吐くことで、
・過剰な緊張が下がる
・神経の興奮が整理される
・身体が「安全な状態」に切り替わる
この状態を作ってから動き出すだけで、
朝の再発リスクは大きく下がる。
「良くなった」と「安定した」は違う
施術によって痛みが取れることは多い。
しかし、
痛みが取れた = 身体の条件が整った
ではない。
神経の出力
感覚の精度
呼吸
エネルギー産生
姿勢の無意識制御
これらが安定して初めて、身体は「戻りにくい状態」になる。
ここが整わないまま、
「痛みが消えた」だけで以前の生活に戻れば、
再発するのはむしろ自然である。
実際、再発を繰り返す人ほど「何もしていない時」に痛めていることが多い。
重い物を持った時ではなく、
立ち上がった瞬間、
顔を洗おうと前屈みになった瞬間、
靴下を履こうとした瞬間。
これは筋力不足ではなく、
神経の準備が終わっていない状態で動き出している証拠である。
もう大丈夫だと思ったのに、また痛める。
それは、
身体が弱いからでも、
治療が無駄だったからでもない。
多くの場合、
身体のシステムがまだ“立ち上がり途中”だった
というだけである。
再発を防ぐために必要なのは、
・構造を戻すこと
ではなく、
・神経が働ける条件を整えること
・起動のプロセスを作ること
・呼吸と感覚を回復させること
である。
痛みは敵ではない。
身体の状態を知らせる「警報」である。
その意味を正しく読み取れたとき、
身体は「壊れ続ける存在」から、「回復できる存在」へと変わっていく。
