——実は“動かなかったこと”が原因である

施術の現場でよく耳にする言葉がある。
「何もしていないのに、急に痛くなった」「特に思い当たることがない」。
一見、原因が思い当たらないように聞こえるが、
アールカイロではこの言葉をそのまま受け取ることはしない。
「何もしていない」という言葉の裏側には、
実は“動かなかった時間”という、体にとって大きな負担が潜んでいるからである。
動かなかったことが「刺激の欠如」になる

体は、常に重力や呼吸、姿勢の変化といった刺激を受けながら機能を維持している。
それらが神経への入力となり、筋肉や内臓、循環を調整している。
つまり、「動き」そのものが神経にとっての栄養なのである。
ところが、長時間同じ姿勢で過ごすことで
この刺激が極端に減ると、神経や筋肉は静電気のように“帯電したまま”の状態になる。
血流は滞り、酸素が届かず、ATP(エネルギー)の生成も低下する。
この「刺激の欠如」と「酸素不足」が続いたあとに急に体を動かすと、
脳は“異常な刺激”としてそれを痛みやしびれとして受け取る。
つまり、「何もしていない」のではなく、**「動かなかったことが刺激になった」**という構図である。
実際のケース:車の運転後に痛みが出た例

以前、アールカイロに来られた方の中に、
「急に腰が痛くなった」と訴えた方がいた。
本人は開口一番、「先生、何もしていないんです」と言った。
話を聞くと、痛みが出たのは車から降りた瞬間であった。
さらに掘り下げて聞くと、2時間以上同じ姿勢で運転していたことがわかった。
このとき、問題となったのは「動作」ではなく「静止」である。
長時間動かずにいた結果、筋肉や神経の代謝が下がり、
そのあと体を動かした瞬間に一気に刺激が入力されて痛みとして表面化した。
「やっていない」のではなく、「動かさなかった」ことが原因である。
これは職業や年齢に関係なく、
デスクワーク・スマートフォン操作・会議・通勤電車など、
現代の生活習慣の中に誰にでも起こり得る。
静的ストレス(動かないことによる負荷)

このような「動かないことによる負担」は、
静的ストレスと呼ばれる。
多くの人は「動きすぎ」「無理な動作」「重い物を持つ」といった
“動的ストレス”を原因と考えるが、
実際には「動かない時間」こそが最も体に負担をかけるストレスである。
デスクワークや長時間の運転、座りっぱなしの会議などは、
「何もしていないようで、実は常に同じ筋肉を使い続けている」状態である。
血流は滞り、神経伝達も低下し、
やがて痛みやしびれといった形で現れる。
聞くべきは「何をしたか」ではなく「何をしなかったか」

アールカイロでは、体の不調を聞くときに
「いつから痛みが出たか」だけでなく、
「その直前、どのように過ごしていたか」を丁寧に尋ねる。
-
どれくらい同じ姿勢でいたのか
-
呼吸は浅くなっていなかったか
-
体を動かす時間が極端に減っていなかったか
これらを確認することで、
“静的ストレス”が背景にあるかどうかが見えてくる。
多くの場合、本人はその時間を「何もしていない」と表現する。
しかし施術者の視点から見ると、そこにこそ原因が潜んでいるのである。
呼吸と姿勢が神経を動かす

動かさなかった時間が長いと、呼吸も浅くなる。
酸素が足りなくなると神経は電気信号を出しにくくなり、
体は“省エネモード”に入る。
この状態では、わずかな動作でも体が驚き、痛みとして反応する。
アールカイロでは、こうした状態の方に対し、
施術だけでなく「動きと呼吸の再教育」を行う。
たとえば、
信号待ちで軽く胸を開く、
長時間のデスクワーク中に1分だけ深呼吸をする、
といった日常の中の小さなリセットを提案している。
呼吸と姿勢が変わるだけで、
神経への酸素供給と刺激入力が戻り、再び“動ける体”に切り替わっていく。
動かないことが、最大の刺激になる

「何もしていないのに痛くなった」という言葉の裏には、
「動かなかったこと」こそが体にとってのストレスという事実が隠れている。
体は、動かすことで血が流れ、呼吸が深まり、神経が働く。
逆に、動かさなければすべてが停滞する。
やっていないのではなく、「やらなかった」ことが刺激になっているのである。
「動かない=負担がない」ではなく、
「動かない=神経が働けない」状態である。
アールカイロでは、この視点をもとに
しびれや痛みを“結果”として捉えず、
体がどう動けていないのかを見極めて整えることを重視している。
何もしていないのに不調が出る——
そのときこそ、体が「もう一度動きたい」と訴えているサインである。