——“下降性疼痛抑制”の意外な役割とは

◆「異常はないが、痛みは続いている」人が増えている
「異常はないと言われたが痛みは続いている」「薬を使っても改善しない」「天気やストレスで悪化する」……といった「説明できない痛み」で悩む方が、当院には年齢・性別を問わず多く来院している。
その背景には、痛みを“感じる”だけでなく、“抑える”ための仕組みがうまく働いていないというケースがある。この仕組みこそが、今回紹介する「下降性疼痛抑制(かこうせいとうつうよくせい)」である。
◆脳にも“痛みのブレーキ”がある

「痛みを感じるのは脳である」という考え方はよく知られているが、実はその逆の働きも脳には存在する。すなわち、脳が「痛みを抑える」命令を出しているということである。
この調整機能は、脳幹の「中脳水道周囲灰白質(PAG)」を起点とし、セロトニンを出す「正中縫線核」やノルアドレナリンを分泌する「青斑核」などを通じて、脊髄に「痛みを抑えろ」という信号を下降させている。
このようにして、痛みは脳の“感じる機能”と“抑える機能”のバランスによって調整されている。構造の問題がなくても痛みが続く場合は、こうした神経のブレーキ機能を疑うべきである。
◆ブレーキが働くには「準備」が必要

しかしこのブレーキは、車のエンジンのように常に準備が整っているわけではない。むしろ、「痛みを抑える」ためには日頃から適切な“ウォーミングアップ”が必要である。
このウォーミングアップとは、日常的な軽い感覚刺激のことである。たとえば、
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服が肌に触れる感覚
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呼吸による胸郭の動き
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足裏が床に当たる刺激
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視線の移動や姿勢の変化
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椅子に腰かけるときの圧
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靴下を履くときの触覚
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頬に当たる風の感覚
こうした「なんでもない刺激」が、神経系のブレーキを整える準備運動になっている。神経のブレーキは、“意識しない”刺激によってこそ整っていくことが多いのである。
◆動かない生活は「ブレーキ」を壊す

長時間動かない生活、浅い呼吸、同じ姿勢でのスマホ使用などが続くと、神経は“温まる機会”を失っていく。その結果として、以下のような変化が起こりやすくなる。
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痛みに対する反応が過敏になる
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小さな刺激でも痛みとして認識される
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慢性痛や広がる痛みが出現しやすくなる
痛みの感受性が高まるという現象は、神経の問題であると同時に、「ブレーキの機能低下」によって説明できる。神経の過敏化は、一度始まると慢性化しやすく、早期の対応が重要である。
◆どうすれば“痛みのブレーキ”は回復するのか?
下降性疼痛抑制を再び機能させるためには、次の3つが重要である。
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日常的な感覚刺激の再獲得
- 動き・呼吸・触れることを意識的に増やす -
神経の過敏状態を施術でリセット
- 刺激の質と順番を見極める施術 -
自己調整力を引き出すサポート
- 外から“治す”のではなく、“働ける状態に戻す”
痛みを「消す」のではなく、「抑える仕組みを回復させる」ことが、慢性症状に対しては本質的である。
◆アールカイロで大切にしていること
当院では、痛みの部位をただ追いかけるのではなく、「どの段階で神経の抑制システムが誤作動しているのか?」を見極めることを重視している。
そのために、施術前の感覚検査や視覚・聴覚・皮膚刺激の反応を丁寧に観察し、患者ごとに異なる“感覚の入力パターン”に合わせて最適な施術を組み立てている。
慢性的な痛みがなぜ起こるのか。どうして他の治療では改善しなかったのか。その“答え”は、神経のブレーキ機能に目を向けることで見えてくるかもしれない。
◎神経の“抑制力”に目を向けることが回復の第一歩
痛みを感じているとき、私たちはどうしても「どこが壊れているのか?」と考えてしまう。しかし、現代の慢性症状の多くは「構造の異常」ではなく、「機能の不全」、特に抑制システムの乱れによって起きている。
今ある痛みが「どこかの壊れ」ではなく、「神経のブレーキの不調」かもしれない。そう思うことで、これまでとは違う視点で自分の体を捉え直すヒントになるはずである。
回復の第一歩は、痛みを“追う”ことではなく、「感じ方」を“整える”ことにある。アールカイロでは、その視点から神経の再教育と調整を行っている。