──近代3種セミナー第2弾「カイロプラクティック編・第1回」

「近代3種」と題されたシリーズセミナーは、東洋医学・カイロプラクティック・リンパの三つの視点から身体を見直す試みとして企画されている。
先日までの第1テーマ「東洋医学編」が終了し、今回から第2テーマ「カイロプラクティック編」へと移った。
本来カイロプラクティックでは、“矯正(アジャストメント)”によって椎骨を直接調整し、神経伝達をスムーズにする。だが今回の講義では、矯正をそのまま行うのではなく、椎骨に付着する筋肉にキネシオテーピングを用いることで、間接的に矯正と同じ効果を導くという新しい試みが示された。
特にテーマは「頚椎」。安全性と再現性のあるアプローチとして、テーピングの可能性が語られた。
講師の言葉と体験の衝撃
「背骨は柱にしてはいけない」
その言葉は、従来の思い込みを揺さぶる一言だった。
もし背骨が柱であれば、動いてはいけない。だが人は前屈も回旋もこなし、スポーツでは大きなねじりや反りを繰り返す。背骨は固定されることで守られるのではなく、自由に動くことで神経を守る構造だという指摘は、従来のイメージを覆すものだった。
この言葉を初めて耳にしたとき、それまでの「背骨=支える柱」という常識が崩れた感覚があった。以来ずっと心に残っていたが、今回の講義であらためてその意味を再確認させられた。
さらに実習では、額やこめかみにテープを貼るだけで後頭部が緩むという体験が共有された。
頭痛や食いしばりといった不調の背景に、首そのものではなく「前頭部の緊張」が関わっている可能性。離れた部位へのアプローチが全身を変化させる──その事実は、テーピングの力を再定義させるものだった。
実習の場面では、実際に参加者同士でテープを貼り合い、変化を確かめ合った。
額に一枚テープを貼った瞬間、「首が軽い」「上を向きやすい」と声が上がる。
見ている側も、その人の頷き動作がスムーズになっているのがはっきり分かる。
従来なら「首に直接施術を加えなければ変化しない」と思われがちな領域で、皮膚と筋肉を介した間接的なアプローチが確かな手応えを生むことが証明された瞬間だった。
ただ貼るだけの行為が、背骨と神経の自由度を呼び戻す──そのシンプルさがかえって強い説得力を持っていた。
矯正を“直接”せずに整えるという発想
今回の講義の核心は、カイロプラクティックの矯正をキネシオテーピングでどのように代替できるかという問いだった。
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矯正を直接行えば即効性はあるが、頚椎へのアジャストメントは高い技術とリスク管理を要する。
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そこで、椎骨に付着する筋肉をケアすることで、結果的に椎骨の位置や可動性を整えるという発想に立つ。
特に上部頚椎(C1・C2)は、大後頭神経との関わりが深く、頭痛やめまい、食いしばりに直結する。ここをテーピングで間接的に調整すれば、矯正に匹敵する効果を安全に得られる可能性がある。
実際、頚椎1番2番の硬さを持つ人に前頭部テープを施すと、頷き動作がスムーズになり、頭痛やイライラ感が軽減するケースが紹介された。
矯正という“点の技術”を、テーピングという“面の技術”で補完する。その挑戦は、施術の在り方を拡張する学びだった。
現場での使い方
臨床の現場では、頭痛や肩こりを訴える人に「額の硬さ=前頭葉の過活動」という視点を持って観察するようになった。
額にテープを貼るだけで後頭部が緩み、姿勢や呼吸まで変化する例もある。
また、腕のしびれや冷えを訴える場合には胸郭出口や斜角筋を確認し、第1肋骨の動きをテーピングで補う。従来であれば矯正が必要だった場面も、筋肉へのテーピングで動きを取り戻すことで、安全かつ再現性のある対応が可能になった。
説明の言葉も変わった。
「ここがずれている」ではなく、
「ここが動きにくいから隣が頑張りすぎている」
と伝えることで、不安を煽らず納得を得られる。結果として、施術への信頼も自然に深まっていく。
背骨を「柱」として固定的に捉える発想から、「動きを取り戻す柔軟な構造」として理解する発想へ。
この視点の転換は、施術だけでなく日常生活にも広がっていく。
デスクワークで固まった姿勢、無意識の食いしばり、呼吸の浅さ──それらはすべて背骨や神経に負担をかけるサインかもしれない。
もしそこで「ただ支える柱」と考えるなら、我慢や矯正に頼るしかない。
だが「自由に動いて守る構造」と捉え直すなら、テーピングや姿勢の工夫で十分に回復の余地がある。
そう思えたとき、症状はただの不調ではなく、身体が発しているメッセージとして聞き取れるようになる。
あの首の重さや頭痛は、単なる疲れだったのだろうか。
それとも、身体が「本来の動きを取り戻してほしい」と静かに訴えていたのだろうか。