「真っすぐ立っていれば平気。でも、前にかがむと腰が痛む」
こうした訴えは、腰痛の初期段階で非常によく見られる。
しかし、その背景に“神経の圧迫”や“循環の滞り”が潜んでいることは意外に知られていない。

腰の痛みは筋肉の張りとして現れることが多いが、実際には神経の働きが乱れ、血流や組織代謝が滞っている状態であることも多い。
今回は、そんな“違和感の正体”に気づき、再発を繰り返していた腰痛が改善したケースを紹介する。

• 50代・女性・デスクワーク中心

• 主訴：
  　右腰の違和感と背中下部の突っ張り感。
  　「前かがみになるとズキッと痛む」「座っていると腰の奥が重い」。

• 経過：
  　半年前に強い腰痛を発症し、一度は落ち着いたものの、その後も違和感が続いていた。
  　整形外科では「軽い筋肉の炎症」と診断され、鎮痛薬で経過観察。
  　しかし、しばらくすると再び痛みが出始め、「曲げると痛い」「しゃがむと怖い」と感じるようになった。

本人は「もう年齢的なものかな」と話していたが、
検査を進めるうちに、神経循環の滞りが痛みの根底にあることが明らかになった。

動作検査では、立位や歩行は問題ないが、前屈時に腰の右側で強い張りが出る。
触診では、腰椎L3〜L5周囲の神経走行部（特に腰方形筋・多裂筋付近）に圧痛があり、
軽度の神経根圧迫に伴う血流低下が示唆された。

また、右腸腰筋の硬直と左殿筋の筋力低下があり、骨盤がやや右回旋していた。
この骨盤のねじれによって、神経が通過するトンネル（椎間孔）が狭まり、
微細な圧迫が持続することで、腰部の循環不全を引き起こしていた。

痛みの本質は「筋肉のこわばり」ではなく、

「神経が圧迫されることで血流と代謝が滞り、筋肉が酸欠状態になっていた」
という神経循環不全型腰痛であると判断した。

施術では、神経圧迫の解除と循環改善を目的に、
「ほぐす」ではなく「通す」方針でアプローチを行った。

1. 腰椎のアライメント調整（流体筋膜動可法）
   　→ 神経根周囲の滑走性を回復し、血流を確保。

2. 大腿後面から腰部への神経ラインリリース
   　→ 坐骨神経の滑走を整え、神経ルート全体の緊張を緩和。

3. キネシオテーピングによる循環サポート
   　→ 皮膚刺激で微細な血流を促進し、代謝の回復を補助。

刺激は穏やかで、「動かすたびに痛みが軽くなる」感覚を重視した。

初回後から「曲げたときの引っかかりが減った」との変化を実感。
2回目の施術後には、前屈時の痛みが半減し、動作に対する恐怖心も薄れた。

数回の施術を経て、

• 腰部の圧痛消失

• 骨盤の左右バランス回復

• 動作時の可動域拡大
  が確認された。

「朝起きたときのこわばりがなくなった」「腰の奥が軽い」という感想が印象的であった。

症状の改善とともに、神経の働きが正常化し循環が戻ったことが、持続的な変化につながったと考えられる。

再発防止のため、以下の3点を中心に体の使い方を再教育した。

• 骨盤と腰椎の連動を意識した姿勢習慣（特に長時間座位時）

• 呼吸を利用した体幹の安定化トレーニング

• 週1回の軽運動での循環維持（ウォーキング・ソフト筋トレ）

神経循環不全型の腰痛は、「症状が消えた＝治った」ではなく「通りが戻った＝回復した」と捉えることが重要である。
引き続き月1回のメンテナンスを行い、安定した機能維持を目指した。

腰痛は「筋肉の張り」と片付けられることが多いが、
実際には神経の圧迫による局所的な循環障害が背景に存在することがある。

特に加齢やデスクワークなどで姿勢が前傾する人では、
腰椎のわずかな歪みが神経走行を圧迫し、慢性的な酸素不足を招く。

臨床カイロプラクティックの立場からは、
神経・筋・血流を一体として整えるアプローチが再発予防に欠かせない。
本症例はまさに「筋肉をほぐす」だけでは改善しない、神経循環の視点の重要性を示すものであった。

※ここで紹介した内容は一例であり、すべての方に同じ変化が起こるとは限りません。
症状や体質により経過は異なりますので、参考情報としてご覧ください。