「背中の奥が常にジンジン痛む」「姿勢を変えても違和感が取れない」
こうした訴えは、肩こりや背部筋の緊張と混同されやすい。
しかし、実際には首から続く神経の伝達異常や筋膜連鎖の乱れが関係していることが多い。

今回は、理学療法士として働く20代男性の症例。
姿勢や身体の構造に詳しい職業でありながらも、
5年以上にわたって続いた背中の痛みの原因は「首からの連鎖」にあった。

• 20代男性・理学療法士

• 主訴：
  　背中の奥（右側）に常にジンジンと続く痛み。
  　夜間や長時間座位で悪化し、寝返り時にも違和感を感じる。

• 経過：
  　約5年前から症状を自覚。
  　ストレッチやセルフケアを試みても改善せず、
  　「慢性的な姿勢のクセが原因だろう」と考え放置していた。

業務中、患者の介助動作や中腰姿勢をとると痛みが強まり、
「仕事には支障ないが、常に背中の奥が張っている」との訴えで来院。

背部の筋肉を押しても特定の痛点はなく、広範囲に鈍い違和感が残る。
可動検査では胸椎の伸展に制限があり、第6胸椎付近での圧迫反応が確認された。

さらに頚部の動きを評価すると、頚椎下部（C6〜C7）で可動制限と軽い緊張を認めた。
触診時、首をわずかに動かすだけで背中の奥にピリッと響く感覚が生じた。

これは、頚椎から胸椎へと続く神経伝達の乱れ（胸椎関連痛）の典型的所見である。
つまり、背中の痛みの根源は“胸椎そのもの”ではなく、

「首から胸へとつながる神経ルートが過剰に緊張していた」
ことによる神経連鎖性の筋膜異常と判断した。

施術では、胸椎を直接矯正するのではなく、
神経の通りを改善し、動作連鎖を整えることを目的とした。

1. 頚椎C6〜C7の流体筋膜動可法による滑走改善
   　→ 神経の出口である椎間孔の通りを確保し、胸部への伝達をスムーズに。

2. 胸郭全体へのキネシオテーピング
   　→ 皮膚感覚を介して筋膜連鎖を再構築し、呼吸と動作を連動。

3. 胸椎伸展を促す呼吸リハビリ（吸気連動法）
   　→ 胸部の動きを制限していた肋間筋群を解放し、胸椎の自然な弾力を回復。

強い刺激や押圧は避け、神経と筋膜の“通りを戻す”繊細なアプローチを徹底した。

初回施術後、「背中のジンジン感が軽くなった」「呼吸が深くなった」と変化を実感。
2回目には、夜間の痛みが大幅に軽減し、仰向けで寝返りが可能に。

3回目の施術では、

• 背部深層の筋緊張が緩和

• 胸椎伸展の制限が解除

• 姿勢保持時の違和感が消失

「朝の通勤時に背中の張りを感じなくなった」と本人も驚いていた。
症状は3週間で安定し、セルフエクササイズのみに移行した。

再発予防のため、以下のセルフケアを指導した。

• 胸郭の開閉運動（呼吸に合わせた肋骨リリース）

• 首〜背中の連動トレ（吸気で首を起こし、呼気で脱力）

• 長時間座位時の「胸を動かす意識」リセット法

また、同業の理学療法士として、
「筋肉の硬さではなく“神経の滑り”を見る視点を持つ」ことの重要性を共有した。
身体の連鎖を正しく理解することで、症状の再発を防げると説明した。

慢性の背部痛において、「胸椎関節の硬さ」や「姿勢の崩れ」だけに注目すると、
根本的な原因を見逃すことがある。

実際、多くのケースでは頚椎〜胸椎にかけての神経滑走障害が隠れており、
関節の動きを整えるだけでは改善が難しい。

本症例のように、頚部の調整によって胸椎の可動性が自然に戻る現象は、
神経生理学的連鎖によって説明できる。
臨床カイロプラクティックでは、構造だけでなく神経・呼吸・姿勢の相互関係を重視することで、
より確実な再発予防につながる。

※ここで紹介した内容は一例であり、すべての方に同じ経過が起こるとは限りません。
症状や体質により経過は異なるため、参考情報としてご覧ください。