「肩甲骨の間がズキッと痛む」「寝返りで激痛が走って眠れない」
普段から体を使う仕事やトレーニングをしている人ほど、
こうした“動かした瞬間の鋭い痛み”を経験することがある。

特に背中の中央部分に生じる痛みは、
肩こりや筋肉疲労だと思われがちだが、
実際には頚椎の椎間板が原因であるケースが少なくない。

今回は、ウエイトトレーニング中に痛みが発症し、
寝返りが打てないほど悪化してしまった20代男性スポーツトレーナーの症例を紹介する。

• 20代男性・スポーツトレーナー

• 主な症状：
  　肩甲骨の間に鋭い痛み。
  　とくに下を向くと強まり、寝返りや起き上がる動作で激痛が走る。

• 発症の経緯：
  　1週間ほど前、ウエイトトレーニング中に背中に違和感を覚え、その後急速に悪化。
  　首を動かさずにいれば痛みは少ないが、寝返りの度に痛みで目が覚める状態となり、来院。

仕事柄、身体の知識はあるものの、原因が特定できず困っていたという背景があった。

触診の結果、背中の筋肉はそこまで硬くない。
しかし、頚椎7番・胸椎4〜5番に圧痛があり、
とくに頚椎の動きで症状が再現されることが分かった。

関節可動域検査・整形外科的検査を総合した結果、

「頚椎7番と胸椎1番の間の椎間板が圧迫され、
髄核（椎間板の中心）が左方向にはみ出している」
という 頚椎椎間板症の可能性が極めて高いと判断した。

筋肉の張りが原因ではなく、
椎間板そのものが負荷に耐えられず変位した状態であった。

施術では、痛みの原因となっている椎間板への圧迫を解放し、
正常な位置へ戻すことを最優先に行った。

1. 頚椎6・7番の歪み矯正
   　→ 椎間板にかかる圧力を減らし、髄核のはみ出しを軽減させる目的で調整。

2. マッケンジーエクササイズ（後方押し込み動作）
   　→ 髄核が本来の中心位置に戻るよう誘導するためのエクササイズ。
   　　矯正後、下を向く動作の痛みが明らかに軽減。

3. 椎間板に対するキネシオテーピング
   　→ 背中の皮膚反射を利用し、椎間板周囲の負荷を分散。
   　　寝返り・起き上がりの痛みが大きく改善した。

胸椎4・5番の圧痛は今回の痛みそのものには関与していなかったが、
頚椎の歪みを引き起こす要因のため、合わせて矯正することで背中全体の動きが安定した。

発症から日が浅かったこともあり、
初回施術で背中の鋭い痛みは大幅に軽減。
「寝返りの痛みがほとんどなくなった」「下を向いても怖くない」との実感が得られた。

ただし、椎間板が完全に安定するには時間が必要であるため、
今後もしばらくの間、マッケンジーエクササイズの継続を提案した。

問診の中で「以前から腰痛とふくらはぎの張りがある」との訴えがあったため、
詳しく聞き取りを行ったところ、腰椎椎間板ヘルニアの可能性が高いと推測された。

さらに、父親も過去に同様の診断を受けており、
“椎間板が弱い体質”である可能性も考慮。

今後の再発予防として以下を提案した。

• 腰部の検査および椎間板の状態確認（次回来院時に実施）

• 胸椎・腰椎のアライメント調整を継続

• エクササイズは強めず、痛みが出ない範囲で継続

• 仕事中・トレーニング中の動作癖の改善

特に椎間板への負荷が大きいウエイトトレーニングでは、
フォームや呼吸法の見直しが重要であることを説明した。

背中の痛みは筋肉の張りと思われがちだが、
実際には 頚椎の椎間板トラブルが原因となるケースは少なくない。

椎間板は血流が乏しく回復に時間がかかるため、
早期に正しいアプローチを行うことで悪化を防げる。

今回のように、

• 神経学的検査

• 椎間板の負荷分析

• 姿勢・動作の評価

これらを統合的に行うことで、
症状を再現し、痛みの本質に正確にアプローチできる。

専門職であるスポーツトレーナーのケースでも、
根本原因が「筋肉」ではなく「椎間板」だったことは示唆に富む症例である。

※ここで紹介した内容は一例であり、
すべての方に同じ変化が起こるとは限りません。
症状や体質により経過は異なるため、参考情報としてご覧ください。